男だけの雑談タイム。
*
「ホント、どこ行ってたの!!」
麻美の誘導で典生と急いで会場へと戻った庵を待ち受けていたのは、無断外出&電話にも出ない庵を炎天下の中探し回っていた晶+暑苦しい着ぐるみの二人であった。
典生がこっそりと回していた連絡網が行き届いてなかったようで、会場裏手で日焼けした顔を汗だくにしてカンカンに怒り狂う晶を、事情を知る一部スタッフが慌てて制止に入った事で一件落着したものの、その背後では着ぐるみの頭部を小脇に抱えて「なんだ」「拉致られたのじゃなかったか…良かった良かった」と、一つ悟りを啓いたかのような虚脱の相で倒れ込む着ぐるみの野郎二人を、打ち上げ直前まで控え室で介抱する羽目になった庵と晶であった。
「あれれ、敦は?」
「会場の隅で一人迷子センターしてる。君よりよっぽど働いてるよ?庵君、明日から敦君に足向けて寝ないように」
「しっかと心得ました」
「はいよろし」
その後、冷気と仮眠で復活した夏彦と大輔にしっかり詫びを入れた後、会場の撤収作業の残りは業者に任せ、とっぷり暮れた夏の夜の下、スタッフ全員でのささやかな打ち上げ焼肉会へと一緒に繰り出したのであった。
*
翌日、7月28日正午。
今日も夏空が広がる神戸。
天気は明日も明後日も晴れなれど、「東シナ海で発達しました熱帯低気圧」の影響で週半ばには一雨来そうな空模様、らしい。
午前中は昨日の疲れもあって、いつも通り早起きな女性陣+幼女に対し、男衆はみな九時を回ってからぞろぞろと寝癖まみれで床から抜け出してきた。
無理もない話である。炎天下の中で長時間勤務+深夜まで打ち上げしていたのだから。
正午過ぎに帰ってきた大学生メンバー+典生はぞろぞろと風呂に入った後、順番に布団へ崩れるように寝入った。
風呂から寝床の準備まで、全て典子と麻美によって準備万端に整えられていたのも大きい。二人とも手慣れた支度振りである。
焼肉店で語り尽くせる話題は語り尽くした様子で、深夜帰りにメンバーと典生だけになった典生の自家用車内では典生と典子のクイズ勝負、庵がアイアイに見つかった事が全て話尽くされ、その場で「万一マスメディアからオファーが来たら」という題目での緊急会議が行われた。
*
「庵、アイアイとはケー番交換した?」
「してない。ののちゃんたちにも口止めしてある。アイアイ、あれでキチンとしてる所はきっちりしてるから友達のケータイ覗き見するようなマネはしないし、それで今までも大丈夫だった」
晶の疑問に対し庵が即答すると、次は運転席の夏彦から質問が飛んでくる。
「そうか…で、その後麻美さんから連絡はあったのか?」
「メール来てた。こちらは精一杯誤魔化しました、って。私もケータイ番号は知らないし、今どこかも知らないってとぼけておいてくれたみたい。スタッフが心底残念がってたけど、無視した方がいいだろうって」
「有難いな。流石麻美さん、か…安佐、今回は兄貴が絡んでるから俺は何とも言えないが…まあ、気をつけろよ」
「…はい」
神妙な庵の声色に、夏彦は「うむ」と頷き返す。
その隣、助手席では酔い潰れてしまった車の持ち主が赤ら顔に鼻提灯を膨らませて、シートベルトをたるませたままガアガアと眠りの住人となっていた。
「兄貴に付き合ってくれて、ありがとな。いいストレス発散になっただろう」
「いいえ、俺は騒ぎ起こしただけになっちゃいましたし。逆に申し訳ないです」
「ねえ、庵先輩」
「うん」
聞き辛そうに、ゆっくりと敦が後部座席から口を開く。
「もうテレビには、本当に全然出られる気、ないんですか?それはそれで惜しい気がして…」
「…うーん、まあ、俺的には出る必要がないし。それにさ、一回テレビに出たらお前でもきっと分かるさ。周囲の反応がコロッと二転三転する不気味さが。お前のオヤジさんは、割り切って趣味でクイズ番組に出られてるからいいけど、俺は目立ちすぎるみたいだし。良い意味でも、悪い意味でも」
俺もう騒がしいのは嫌なんだ、と言うと、敦は「そうですか」と、どこか残念そうに首をすくめた。
多分、今でも日本のあちらこちらに、「クイズといえば安佐庵が見たい」と思ってくれてる視聴者が、少なからずいてくれてるのかもしれない。
それは素直に嬉しいし有難いけれど、庵にとって、「テレビ番組でのクイズ」はリターンよりもリスクの方が大きい代物になってしまった。
嫉妬、羨望、妬みそねみ。
自分を商品化し、絞れるだけ絞って金品に変えてしまおうとする、打算的な制作サイドの皮算用。
そんな負の感情に晒されるのは、もうゴメンだ。だからこそ、あのゲームは丁度良かった。
充実したシステム面と、分かりやすい形式。そして、有名でないマイナージャンルであること。ひっそりと遊ぶには申し分ない出来。
出来れば、ゲーセンから撤去されない程度の知名度で、このままマイナーでいてほしいとさえ思っているのだから。
「それじゃあ、万一テレビがやってきてもシカト、もしくはトンズラでFAだな?」
「ですね大輔さん。あ、でも店内対戦大会とかなら、俺強い人来るなら行ってみたいです」
「分かった。じゃあその旨、いい話がないかどうか先輩に聞いておいてやるよ。…ったく、ワガママだなお前は」
「すみませんです」
憎まれ口を叩きつつも、どこか大輔の表情は優しい。
「まあ、強い奴は強い相手としたくなるのは道理だろうし。気持ちは分からなくもない。しかしそれなら九州大会はどうする?見学もやばそうだが」
「大会会場はもうこりごりです。こりました。アイアイアイズ、おっかないです。大輔さん、元王者の人と大会出るんでしょ?だったら、その後スタッフ抜きの飲み会とかにでもこっそり参加させてほしいお」
「あー…そうなると、大会翌日とかになるかも知れんが、いいか?どんだけ時間取られるか、まだ把握してないんだ」
「俺はオッケーです。元王者と対戦したら、俺も東京に戻ろうと思ってますし」
「あれ、そのまま東京直行なの?いっそのこと九州からもう一度香川へ押しかけちゃえばいいのに~」
「…あのさあ晶、俺をそんなにせっつかないでほしいんですけどー?香川香川って、まだ上陸してもないし、まだ、会って口聞いてないし、なのに、何だか、もう俺がその、なんつーか、なあおい」
「(どう見ても)」
「(年下の僕から見ても…)」
「(どう考えても両思いっぽい…いや絶対そうだと思うんだが)」
普段、のどかと一緒に居るだけでどんだけラブラブな雰囲気になってるのか自覚してないのかと思うと、庵ははたして本当に天才なのか、はたまたどれほど鈍感なのかと問いただしたくなる思いだ。
見ていて、正直じれったい。
というか、純情モンテ●ルロすぎてイライラ極まる。
ほのぼのカップルにも限度ってもんが(略)と、とりわけ大輔なんぞは見かけるたびに「小学生じゃねえんだからさ」と内心非常にジリジリしていたのだが、庵はそこいらへん全く自覚無し!のようである。
何故か「手を繋ぐ」以上の行動に結びつかない二人の恋愛を、さっさと推し進めてやりたくなるのは人情のサガ、だと周囲皆思っている。敢えて無言で募る苛立ちを示す友人達に、庵は「晶こそ杏奈さんどうなんだよ」と苦し紛れに上手くない言い逃れを返す。
「九州上陸したら約束取り付けちゃうよ、絶対。僕、庵と違って回りくどいのは苦手だもの。この思い、夏で決めたいんだよね~」
でれっと締まりのない顔つきになる晶に、大輔の厳しい視線が刺さる。
「抜け駆けか?」
「まさか~?だって、そうならこんなとこで言いませんよ大輔さん。
自 信 有 り ♪ だから言うんじゃないですか~」
「…絶対阻止してやる」
「そんなあ!大輔さんこそ実家の手伝い、いいんですか?福岡に帰らないと怒られますよ?」
「どうでもいいな(百十回目の勘当されてるし)」
「大輔さん目が据わってますよ怖い怖い」
「僕はどうしようかな~…九州って何がありましたっけ?高千穂?嬉野温泉?余裕があるなら、色々見て回りたいです~」
「大輔さーん、敦君が旅案内の方が欲しいそうでーす」
「る●ぶでぐぐれ」
「ひでえ!!」
「お前等いいなあ、旅の話なんかしてさ!俺も来年は、気楽に風来坊にでもなってていたいぜ~」
心底羨ましそうに呟く夏彦の隣では、いつしかいびきは止み、静かな寝息だけが微かに空調に紛れて聞こえていた。
【7月28日・たらふく牛肉・純情庵・張り合う晶と大輔・観光気分敦・続く】
「ホント、どこ行ってたの!!」
麻美の誘導で典生と急いで会場へと戻った庵を待ち受けていたのは、無断外出&電話にも出ない庵を炎天下の中探し回っていた晶+暑苦しい着ぐるみの二人であった。
典生がこっそりと回していた連絡網が行き届いてなかったようで、会場裏手で日焼けした顔を汗だくにしてカンカンに怒り狂う晶を、事情を知る一部スタッフが慌てて制止に入った事で一件落着したものの、その背後では着ぐるみの頭部を小脇に抱えて「なんだ」「拉致られたのじゃなかったか…良かった良かった」と、一つ悟りを啓いたかのような虚脱の相で倒れ込む着ぐるみの野郎二人を、打ち上げ直前まで控え室で介抱する羽目になった庵と晶であった。
「あれれ、敦は?」
「会場の隅で一人迷子センターしてる。君よりよっぽど働いてるよ?庵君、明日から敦君に足向けて寝ないように」
「しっかと心得ました」
「はいよろし」
その後、冷気と仮眠で復活した夏彦と大輔にしっかり詫びを入れた後、会場の撤収作業の残りは業者に任せ、とっぷり暮れた夏の夜の下、スタッフ全員でのささやかな打ち上げ焼肉会へと一緒に繰り出したのであった。
*
翌日、7月28日正午。
今日も夏空が広がる神戸。
天気は明日も明後日も晴れなれど、「東シナ海で発達しました熱帯低気圧」の影響で週半ばには一雨来そうな空模様、らしい。
午前中は昨日の疲れもあって、いつも通り早起きな女性陣+幼女に対し、男衆はみな九時を回ってからぞろぞろと寝癖まみれで床から抜け出してきた。
無理もない話である。炎天下の中で長時間勤務+深夜まで打ち上げしていたのだから。
正午過ぎに帰ってきた大学生メンバー+典生はぞろぞろと風呂に入った後、順番に布団へ崩れるように寝入った。
風呂から寝床の準備まで、全て典子と麻美によって準備万端に整えられていたのも大きい。二人とも手慣れた支度振りである。
焼肉店で語り尽くせる話題は語り尽くした様子で、深夜帰りにメンバーと典生だけになった典生の自家用車内では典生と典子のクイズ勝負、庵がアイアイに見つかった事が全て話尽くされ、その場で「万一マスメディアからオファーが来たら」という題目での緊急会議が行われた。
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「庵、アイアイとはケー番交換した?」
「してない。ののちゃんたちにも口止めしてある。アイアイ、あれでキチンとしてる所はきっちりしてるから友達のケータイ覗き見するようなマネはしないし、それで今までも大丈夫だった」
晶の疑問に対し庵が即答すると、次は運転席の夏彦から質問が飛んでくる。
「そうか…で、その後麻美さんから連絡はあったのか?」
「メール来てた。こちらは精一杯誤魔化しました、って。私もケータイ番号は知らないし、今どこかも知らないってとぼけておいてくれたみたい。スタッフが心底残念がってたけど、無視した方がいいだろうって」
「有難いな。流石麻美さん、か…安佐、今回は兄貴が絡んでるから俺は何とも言えないが…まあ、気をつけろよ」
「…はい」
神妙な庵の声色に、夏彦は「うむ」と頷き返す。
その隣、助手席では酔い潰れてしまった車の持ち主が赤ら顔に鼻提灯を膨らませて、シートベルトをたるませたままガアガアと眠りの住人となっていた。
「兄貴に付き合ってくれて、ありがとな。いいストレス発散になっただろう」
「いいえ、俺は騒ぎ起こしただけになっちゃいましたし。逆に申し訳ないです」
「ねえ、庵先輩」
「うん」
聞き辛そうに、ゆっくりと敦が後部座席から口を開く。
「もうテレビには、本当に全然出られる気、ないんですか?それはそれで惜しい気がして…」
「…うーん、まあ、俺的には出る必要がないし。それにさ、一回テレビに出たらお前でもきっと分かるさ。周囲の反応がコロッと二転三転する不気味さが。お前のオヤジさんは、割り切って趣味でクイズ番組に出られてるからいいけど、俺は目立ちすぎるみたいだし。良い意味でも、悪い意味でも」
俺もう騒がしいのは嫌なんだ、と言うと、敦は「そうですか」と、どこか残念そうに首をすくめた。
多分、今でも日本のあちらこちらに、「クイズといえば安佐庵が見たい」と思ってくれてる視聴者が、少なからずいてくれてるのかもしれない。
それは素直に嬉しいし有難いけれど、庵にとって、「テレビ番組でのクイズ」はリターンよりもリスクの方が大きい代物になってしまった。
嫉妬、羨望、妬みそねみ。
自分を商品化し、絞れるだけ絞って金品に変えてしまおうとする、打算的な制作サイドの皮算用。
そんな負の感情に晒されるのは、もうゴメンだ。だからこそ、あのゲームは丁度良かった。
充実したシステム面と、分かりやすい形式。そして、有名でないマイナージャンルであること。ひっそりと遊ぶには申し分ない出来。
出来れば、ゲーセンから撤去されない程度の知名度で、このままマイナーでいてほしいとさえ思っているのだから。
「それじゃあ、万一テレビがやってきてもシカト、もしくはトンズラでFAだな?」
「ですね大輔さん。あ、でも店内対戦大会とかなら、俺強い人来るなら行ってみたいです」
「分かった。じゃあその旨、いい話がないかどうか先輩に聞いておいてやるよ。…ったく、ワガママだなお前は」
「すみませんです」
憎まれ口を叩きつつも、どこか大輔の表情は優しい。
「まあ、強い奴は強い相手としたくなるのは道理だろうし。気持ちは分からなくもない。しかしそれなら九州大会はどうする?見学もやばそうだが」
「大会会場はもうこりごりです。こりました。アイアイアイズ、おっかないです。大輔さん、元王者の人と大会出るんでしょ?だったら、その後スタッフ抜きの飲み会とかにでもこっそり参加させてほしいお」
「あー…そうなると、大会翌日とかになるかも知れんが、いいか?どんだけ時間取られるか、まだ把握してないんだ」
「俺はオッケーです。元王者と対戦したら、俺も東京に戻ろうと思ってますし」
「あれ、そのまま東京直行なの?いっそのこと九州からもう一度香川へ押しかけちゃえばいいのに~」
「…あのさあ晶、俺をそんなにせっつかないでほしいんですけどー?香川香川って、まだ上陸してもないし、まだ、会って口聞いてないし、なのに、何だか、もう俺がその、なんつーか、なあおい」
「(どう見ても)」
「(年下の僕から見ても…)」
「(どう考えても両思いっぽい…いや絶対そうだと思うんだが)」
普段、のどかと一緒に居るだけでどんだけラブラブな雰囲気になってるのか自覚してないのかと思うと、庵ははたして本当に天才なのか、はたまたどれほど鈍感なのかと問いただしたくなる思いだ。
見ていて、正直じれったい。
というか、純情モンテ●ルロすぎてイライラ極まる。
ほのぼのカップルにも限度ってもんが(略)と、とりわけ大輔なんぞは見かけるたびに「小学生じゃねえんだからさ」と内心非常にジリジリしていたのだが、庵はそこいらへん全く自覚無し!のようである。
何故か「手を繋ぐ」以上の行動に結びつかない二人の恋愛を、さっさと推し進めてやりたくなるのは人情のサガ、だと周囲皆思っている。敢えて無言で募る苛立ちを示す友人達に、庵は「晶こそ杏奈さんどうなんだよ」と苦し紛れに上手くない言い逃れを返す。
「九州上陸したら約束取り付けちゃうよ、絶対。僕、庵と違って回りくどいのは苦手だもの。この思い、夏で決めたいんだよね~」
でれっと締まりのない顔つきになる晶に、大輔の厳しい視線が刺さる。
「抜け駆けか?」
「まさか~?だって、そうならこんなとこで言いませんよ大輔さん。
自 信 有 り ♪ だから言うんじゃないですか~」
「…絶対阻止してやる」
「そんなあ!大輔さんこそ実家の手伝い、いいんですか?福岡に帰らないと怒られますよ?」
「どうでもいいな(百十回目の勘当されてるし)」
「大輔さん目が据わってますよ怖い怖い」
「僕はどうしようかな~…九州って何がありましたっけ?高千穂?嬉野温泉?余裕があるなら、色々見て回りたいです~」
「大輔さーん、敦君が旅案内の方が欲しいそうでーす」
「る●ぶでぐぐれ」
「ひでえ!!」
「お前等いいなあ、旅の話なんかしてさ!俺も来年は、気楽に風来坊にでもなってていたいぜ~」
心底羨ましそうに呟く夏彦の隣では、いつしかいびきは止み、静かな寝息だけが微かに空調に紛れて聞こえていた。
【7月28日・たらふく牛肉・純情庵・張り合う晶と大輔・観光気分敦・続く】
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