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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

寄り添う影と影。
*

フタバは、名も知らぬ不思議な「おともだち」と一緒に地下室のラボ内で二人きりの時を過ごした。誰も訪ねてくる事のない灰色と鏡の部屋で、記録用監視カメラに見守られながら。

「…そうして、おひめさまは、おうじさまと、幸せにくらしました。めでたしめでたし…」
「…ありがとう、フタバ。とっても面白かったよ。ねえ、次はこれを読んで」
「うん、いいよ」

彼らは毎日本を読み、二人で追いかけっこや鬼ごっこをし、疲れれば寄り添って眠った。

「フタバ、ただいま。新しい本を持ってきたよ」
「わあ、ありがとう」

「おともだち」は、フタバが丁度周囲の物に飽き始める頃に、ふらりと外に出ては新しい衣服や食料、本にオモチャを調達して帰ってきた。
丁度その頃、異常事態を察し連絡役の研究員が全員島から逃げ出し、島に取り残された他の子供達は、時同じくして出現した「悪魔」がいたと証言している。
その悪魔は研究員がいなくなってからの数日間だけ、影時間にやってきては備品の衣類や食料、水、生活に必要な品やオモチャ、絵本諸々を求めて子供達の前に姿を現した。
戦うそぶりが無ければ手を出してこなかったため、皆ずっと隠れてやり過ごしていたという。
だが、それもあって元々少なくなっていた備蓄の食糧は更に目減りし、助けを呼ぶ方法を探す間に子供達は体力の低い者から次々と倒れていった。

「ねえ、今日はユキちゃんにお歌を歌ってもらおうか」
「うん、いいね。聞きたいな」

一人、また一人と飢えや病気で死んでいく中、外部との連絡方法を探し生き残った少年達は、いつ頃からか、影時間になる度、別館から聞こえてくる歌声に更なる恐怖を感じていた。
それは、最初にこの島で亡くなった、ユキのペルソナの歌声だったから。

「おなかすいた?フタバ」
「…ううん、だいじょうぶだよ。ごはんなくても、ぼくはきみよりおにいさんだから、がまんできるよ」
「…そう。たぶん、そのうち空かなくなるよ。だって、フタバはいいこだからね」

島内に漁る食料も無くなると、「おともだち」は次なる行動へと動いた。
別の監視カメラに残された映像で、死神はこの地に定期的にシャドウを呼び寄せては、「再統合」という形で吸収し続けていた事が分かっている。
シャドウとしての、栄養補給の形だった。

「…さむいね」
「…そう?寒いのフタバ?だいじょうぶだよ。きっとそのうち寒くなくなるよ」

食料が既に尽きた頃から、フタバは「おともだち」と日がな一日寄り添って暮らすようになっていった。
少年は次第に「おともだち」と同じように、
体温も、
空腹感も薄れ、
毎日勉強して、遊んで、彼と語らい、微笑みあった。

*

成瀬の記憶の最後にあるのは、嬉しそうなフタバに手を引かれ、連れて行かれた監視室の奥にある部屋の光景だった。
「はいおじちゃん、ここだよ」

そこは研究開発機材が所狭しと並べられており、手術室のようなエタノール臭で満ちていた。ホコリで煤けた寝台の上に無造作に並べられている、大量のパーツ機材を見て、俺は慄然とした。

「…ガラティア」
爆発事故の際に回収、廃棄されたはずの俺の娘…の等身大の写真。
そして内部パーツ・機器の詳細な図面。
寝台の側にちらばった写真には、直視するのも辛い、彼女の最期と思われる無惨な残骸を写したモノクロ写真が何十枚もホコリを被っていた。
そして、それと同じ数だけの、葉子の写真も。
どれも物陰から撮影されたもので不鮮明だったが、それはいつどこで撮られたものかすぐに分かった。

どれもこれも、俺と一緒に行った、映画館やデパート、カフェ、公園の隠し撮り。
笑っている彼女の横に、俺の背中が堂々と写っているものさえあった。

足下には、ガラティアのパーツを模倣したとおぼしき、いびつで不格好な脚部や胸部の残骸が、部屋の中に数十数百とひしめいている。
粗悪な素材の大根脚や、不均等な胸部を晒して、小学生の粘土細工レベルのマネキンにも劣る頭部がごろごろと床を埋め尽くしている。
俺達が精魂込めて形成した娘のパーツと比べると、明らかに三流な出来だったが、だが微妙に形の異なる鉄くずの残骸達に、俺は日向の執念にも似た異常愛を感じ身が竦んだ。

「ちがうよおじちゃん。これはおかあさんのぶひんだよ。これから、おかあさんつくりなおすの。まえのおかあさんは、おはなしきいてくれない、ごはんもおやつもつくってくれない、わるいおかあさんだったから」
「………わるい、おかあさん?」
「うんそう。おかあさん、いつもおでんわばっかりまって、ぼくのおはなしきいてくれなかった。ぼく、ひゃくてんとってかえってもかけっこいちばんでも、がっきゅういいんになっても、おかあさん、おはなししてもおへんじしてくれなかった」
「…そんな」
そんなはずはない。
葉子は、センパイはフタバを大切にしていたはずだ。

「…おかあさん、おばあちゃんのおでんわにいってた。
ぼく、おとうさんみたいにべたべたするからいやなんだって。
しつこいから、おとうさんみたいでいやなんだって。
だから、ずっとわがままいわないいいこにしてたのに、しんじゃった」
フタバの表情から、一瞬笑顔が消える。
だが、すぐに暗い目のまま、虚ろな笑顔に張り替えられる。

「でもいいんだ。おとうさんがね、やさしいおかあさんつくってくれるから。
…でもね、うまくできないんだって…だから、おとうさん、きっとげんきないとおもうんだ」
「…」
「こんどのおかあさんはね、とってもやさしいおかあさんにしてくれるって。まいにちおでかけしないし、ぼくのおはなしもちゃんときいてくれて、いつもプリンつくってくれるおかあさんにしてくれるんだ。それでね、おかあさんできたらおうちにかえるんだ。おともだちもいっしょに四人でかえるの」
「…フタバ…」

俺を見上げるあどけない少年は、俺を救いの主か何かでも見るかのように、にこにこと嬉しそうに微笑んでいた。
慣れた足取りで薄暗い部屋の奥へ入ると、一抱えもある大きなホルマリン漬けの容器を愛おしげにだき抱えて持ってきた。

「はいこれ。おかあさんだよ」

俺は一瞬、目の前にあるものが信じられなかった。
人間の頭のホルマリン漬け。
愛した女性の面差しを持つ、眠る頭部。
部屋の灯りは薄暗く、俺はそれを思い出すだに、その中に入っていたのは「彼女」だったのか「娘」だったのか分からずにいる。

「おとうさん、あたまからつくってたけど、きっともっといいおかあさんにしようとしてたんだよ。
でもね、ぼくしってるんだ。
おとうさん、まいにちおかあさんとおはなししてたんだよ。
きっと、おかあさんにどんなからだがいいか、きいてたんだとおもうんだ」












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