※車中にて
「庵先輩、岡山ってどんなところなんですか」
「岡山城と後楽園と、後は美観地区が有名なくらいで特に面白いものはなんもない県だお」
「えーっ…そんなまさか('A`)」
「事実だから泣ける」
↓
「庵先輩、岡山ってどんなところなんですか」
「岡山城と後楽園と、後は美観地区が有名なくらいで特に面白いものはなんもない県だお」
「えーっ…そんなまさか('A`)」
「事実だから泣ける」
↓
*
「蒜山のずるずるジャージー牛乳プレミアムぺろぺろっつうだけで随分な値段だからどんなもんかとずずーーっ思ったが、意外に美味いなこれ」
「安藤先輩、ソフト食べるかしゃべるかどっちかにして下さいよ…効果音が汚らしいです…」
「んな無茶言うな!溶けてこぼしたらもったいないだろうが!800円の高級品なんざ地面に垂らしたらバチが当たるってもんよ」
「(それ買ったの僕たちなんだけど…)」
「(流石先輩、あそこまで真剣に食って貰えれば乳牛的にも本望だろうな)」
明けて翌日、7月29日。
施設内で簡単な朝食を取り意気揚々と車に乗り込んだ五人は、一路岡山城を目指して発進した。
最初からずっと運転し通しな夏彦へのねぎらいに、他四名200円ずつ出資で後楽園到着してすぐに園前の茶屋でジャージー牛乳ソフトをそそっと差し入れた次第なのである。一本400円でも充分にお高いがそこはそれ、更にワングレード上の「プレミアム」を選択したため高くついたが、一発で夏彦の疲労困憊だった強面が融解したので結果オーライである。やはり、蒸し暑い夏のスイーツは氷菓に限る。
コーンの先まで心底美味そうにかじり尽くすと、「それじゃあ行くか」と夏彦は手を払った。
昼より少し前に到着したので幾分マシな日差しだが、直に暑さを増すのが分かる。
今でも刺すような熱が肌を刺す。加えて昨日よりも湿気が濃くなっているのか汗ばみ方が三割増しのようで、朝着替えたばかりの洗い立てだったTシャツがもう汗で張り付いている。
それでも観光気分なためか、皆足取りは軽い。チケット片手に入場口の櫓をくぐると、殿様気分な午前中。
ただ、庵はやたらと暑い熱気をやけに鬱陶しく感じていた。
熱が体内にこもるような錯覚にけだるさを覚えていたせいだが、無邪気に目の前を歩く敦を見ているとそんな不快感も軽減されるようだった。
「わあ、凄いですねー!芝生が青いし、純和風だし!こういうの、僕大好きですぅ!」
松林の木陰になった散歩道を抜けると、石橋を渡った先に広大な芝生の庭園がパノラマに広がる。
正面には竹林の向こうに岡山城を望み、小さな島を囲うように流線を描く池と小川が美しい。
まさしく大名庭園な風情を残すお庭、なのである。
「へえ、それならよかった。あんまりこういう渋いの好きな奴いないから」
「僕、謙信公とか大好きなんです!関が原とか、川中島とか、戦国時代は一時マイブームでしたから」
「おお、なるほど。なら色々と見て回るか、敦。ナビしてやんよ」
「よかったね、庵は年間パス持ってたくらいだからガイドできるくらい詳しいよ」
「本当ですか?…有難うございます、感激です!」
*
「庵先輩、後楽園って何でこの名が?」
「ああ、元は城の背後にあるから後園とか呼ばれてたんだけど、明治時代に市民へ限定開放するようになった際に中国の書物『岳陽楼記』にある「先憂後楽」からとって「後楽園」と改めたんだ。これは中国宋時代の政治家・范仲淹の言葉で「天下の憂いに先立って憂い、天下の楽しみの後に楽しむ」って意味。
要は、政治家は万民の為に憂いを先立って考え、天下泰平が成って下々の民が喜んだ後で楽しみましょうねって事だって」
「ほえ~…」
「流石歩くウィキペディア」
小一時間ほど庵の先導で園内を歩き、目にも眩しい青葉の庭を眺めて歩く。
最初からずっと敦に質問攻めにあっている庵と晶を遠巻きに眺めながら、大輔と夏彦は保護者然として三人の後をついていく。
「こういう歴史的な建築物に触れるのもいいもんだ」
「そっすね。俺、和文化好きなんでこういうのは歓迎ですね。講義の足しにもなるし」
「ん?お前さんそっちの学科か?」
「社会専攻です。地歴の教員目指してるんで…つっても、やっぱり史学の講義が一番面白いっす」
「いいねえ。姫路城もちょろっと拝観してくれば良かったなぁ」
「ですね。前に小田原とか宇都宮とか城跡巡りして回ってたことあるんですけど、日本の城はいいっすよね」
「おおっ、お前さんそっち行けるクチか?俺も古跡とか博物館とか好きでなぁ。先人達の文化に触れるのはいい経験になる…」
車内の会話に置いてけぼりだった二人、「古文化好き」の共通項でひととき話に花を咲かせる。
続いて、岡山城へ。
園内から出て、旭川沿いに小道を歩くこと数分。旭川を跨ぐ細い架橋を渡るとすぐ目の前である。
が。
「…お庭で見たよりも、何だか、ちっさいですね…」
「そうなんよ」
悲しげに、地元民庵はそっと呟く。
「間近で見ると平城だからねー…元はもう少しマシだったみたいだけど、再建された部分だけだとすぐ攻め落とされそうなのが悲しい」
まあそれはそれ、石垣沿いの階段を登って登城すると、こちらも城門からぐるりと一回り。
全部見終わる頃には丁度昼食時になり、城門前で人心地つく。
「堪能したかな?敦君」
「はいっ!!先輩有難うございましたっ!」
「はいよろしー。俺も満足。やっぱ一年に一回は来たいなここ」
「好きだねー庵。デートスポットとしてはまあまあだと思うけど」
「まあね。知り合いさえ近くに住んでないなら毎年来るんだけどなー…」
「あー…」
同じ悩みを抱えるもの同士、腐れ縁の二人は並んで空を仰ぐのであった。
*
「安藤先輩、お土産送りました?」
「ああ、まあ。傷みにくそうなのをちょろっとな」
何の気なしに自分用の菓子が入ったビニール袋の中身を晶に見せて、夏彦はそそくさと車のトランクへ放り込み運転席へ向かう。
隣で同じく中身を見ていた大輔は、晶と顔を見合わせてひそひそと囁く。
「予想通りキビ団子だったが」
「チョコ味だったね。あれ、さっき二箱買ってたよ」
「それはそれは」
「電話で話すネタが増えるね」
「何やってるんだお前ら?早く乗れよー」
車窓から顔を覗かせる夏彦の催促に合わせるように、「お待たせしましたー」と、敦が庵と共に駆け寄ってくるのが見えた。
「随分遅かったな敦…あの重量じゃあ金かかっただろ?いきなり買いすぎじゃないか?」
大輔の指摘に、息せき切らせて駆けて来た敦は返す言葉もなくすみません、と頭を垂れる。
「まあまあ。昼ごはんがてら適当な所で休憩取りませんか先輩?」
「先輩俺もグリコーゲンが足らんであります」
俺も腹は減ったが、と夏彦はワンクッション置いて「ついでにどっかで早押ししていかねえか?」と切り出す。
「ヒゲ先輩アンアンは香川にもありますよ(・ω・)」
「まるゲってゲーセン気になるよねー」
「ええっちょっと待て俺ずっと運転してんのに四国までボタンお預けってか?…つうかお前ら地元民だろ?どっかありそうなゲーセン知らないの?駅前はやばいだろうから、人里離れた通なゲーセンとか」
「先輩メジャーなゲーセンを避けてくれようという心意気は感謝ですが、僕たちそもそもこれまでゲーセンに全然行かなかった人種なもので」
「同じくであります」
それ俺も調べたんすけど、と大輔もおそるおそる口を挟む。
「マジアカ設置店とアンアン設置店って必ずしもかぶってないからなぁ…岡山は俺も疎いし、四国のがベターだと」
「ぐっ、そうか…残念だが諦めるか…」
「その代わり、四国では結構遊べそうですよ。あの宇宙人アイドルも香川には来ないようだし、当分雲隠れ出来るんじゃないかと」
「へえー良かったねー庵」
「な、何で俺に振るんだよ!」
晶のクールな一言に庵が赤面すると、「それじゃあ、四国上陸したら噂になる前にさっさとトンズラだな!」と夏彦の愉快そうな大声が車内に響く。
「安全策で庵だけのどかさんちに匿っといてもらおうぜ」
「それで僕らは早押し三昧と」
「おー、それいいな!」
「えー俺も押す!ののちゃんと押すんだー!」
「先輩本音が!」
車内は和気藹々と、進路を倉敷・児島方面へ。
目指すは下津井、その先は宇野。…そして香川県高松市、屋島である。
【7月29日・岡山城は庭が本体・その頃香川の彼女は】
「蒜山のずるずるジャージー牛乳プレミアムぺろぺろっつうだけで随分な値段だからどんなもんかとずずーーっ思ったが、意外に美味いなこれ」
「安藤先輩、ソフト食べるかしゃべるかどっちかにして下さいよ…効果音が汚らしいです…」
「んな無茶言うな!溶けてこぼしたらもったいないだろうが!800円の高級品なんざ地面に垂らしたらバチが当たるってもんよ」
「(それ買ったの僕たちなんだけど…)」
「(流石先輩、あそこまで真剣に食って貰えれば乳牛的にも本望だろうな)」
明けて翌日、7月29日。
施設内で簡単な朝食を取り意気揚々と車に乗り込んだ五人は、一路岡山城を目指して発進した。
最初からずっと運転し通しな夏彦へのねぎらいに、他四名200円ずつ出資で後楽園到着してすぐに園前の茶屋でジャージー牛乳ソフトをそそっと差し入れた次第なのである。一本400円でも充分にお高いがそこはそれ、更にワングレード上の「プレミアム」を選択したため高くついたが、一発で夏彦の疲労困憊だった強面が融解したので結果オーライである。やはり、蒸し暑い夏のスイーツは氷菓に限る。
コーンの先まで心底美味そうにかじり尽くすと、「それじゃあ行くか」と夏彦は手を払った。
昼より少し前に到着したので幾分マシな日差しだが、直に暑さを増すのが分かる。
今でも刺すような熱が肌を刺す。加えて昨日よりも湿気が濃くなっているのか汗ばみ方が三割増しのようで、朝着替えたばかりの洗い立てだったTシャツがもう汗で張り付いている。
それでも観光気分なためか、皆足取りは軽い。チケット片手に入場口の櫓をくぐると、殿様気分な午前中。
ただ、庵はやたらと暑い熱気をやけに鬱陶しく感じていた。
熱が体内にこもるような錯覚にけだるさを覚えていたせいだが、無邪気に目の前を歩く敦を見ているとそんな不快感も軽減されるようだった。
「わあ、凄いですねー!芝生が青いし、純和風だし!こういうの、僕大好きですぅ!」
松林の木陰になった散歩道を抜けると、石橋を渡った先に広大な芝生の庭園がパノラマに広がる。
正面には竹林の向こうに岡山城を望み、小さな島を囲うように流線を描く池と小川が美しい。
まさしく大名庭園な風情を残すお庭、なのである。
「へえ、それならよかった。あんまりこういう渋いの好きな奴いないから」
「僕、謙信公とか大好きなんです!関が原とか、川中島とか、戦国時代は一時マイブームでしたから」
「おお、なるほど。なら色々と見て回るか、敦。ナビしてやんよ」
「よかったね、庵は年間パス持ってたくらいだからガイドできるくらい詳しいよ」
「本当ですか?…有難うございます、感激です!」
*
「庵先輩、後楽園って何でこの名が?」
「ああ、元は城の背後にあるから後園とか呼ばれてたんだけど、明治時代に市民へ限定開放するようになった際に中国の書物『岳陽楼記』にある「先憂後楽」からとって「後楽園」と改めたんだ。これは中国宋時代の政治家・范仲淹の言葉で「天下の憂いに先立って憂い、天下の楽しみの後に楽しむ」って意味。
要は、政治家は万民の為に憂いを先立って考え、天下泰平が成って下々の民が喜んだ後で楽しみましょうねって事だって」
「ほえ~…」
「流石歩くウィキペディア」
小一時間ほど庵の先導で園内を歩き、目にも眩しい青葉の庭を眺めて歩く。
最初からずっと敦に質問攻めにあっている庵と晶を遠巻きに眺めながら、大輔と夏彦は保護者然として三人の後をついていく。
「こういう歴史的な建築物に触れるのもいいもんだ」
「そっすね。俺、和文化好きなんでこういうのは歓迎ですね。講義の足しにもなるし」
「ん?お前さんそっちの学科か?」
「社会専攻です。地歴の教員目指してるんで…つっても、やっぱり史学の講義が一番面白いっす」
「いいねえ。姫路城もちょろっと拝観してくれば良かったなぁ」
「ですね。前に小田原とか宇都宮とか城跡巡りして回ってたことあるんですけど、日本の城はいいっすよね」
「おおっ、お前さんそっち行けるクチか?俺も古跡とか博物館とか好きでなぁ。先人達の文化に触れるのはいい経験になる…」
車内の会話に置いてけぼりだった二人、「古文化好き」の共通項でひととき話に花を咲かせる。
続いて、岡山城へ。
園内から出て、旭川沿いに小道を歩くこと数分。旭川を跨ぐ細い架橋を渡るとすぐ目の前である。
が。
「…お庭で見たよりも、何だか、ちっさいですね…」
「そうなんよ」
悲しげに、地元民庵はそっと呟く。
「間近で見ると平城だからねー…元はもう少しマシだったみたいだけど、再建された部分だけだとすぐ攻め落とされそうなのが悲しい」
まあそれはそれ、石垣沿いの階段を登って登城すると、こちらも城門からぐるりと一回り。
全部見終わる頃には丁度昼食時になり、城門前で人心地つく。
「堪能したかな?敦君」
「はいっ!!先輩有難うございましたっ!」
「はいよろしー。俺も満足。やっぱ一年に一回は来たいなここ」
「好きだねー庵。デートスポットとしてはまあまあだと思うけど」
「まあね。知り合いさえ近くに住んでないなら毎年来るんだけどなー…」
「あー…」
同じ悩みを抱えるもの同士、腐れ縁の二人は並んで空を仰ぐのであった。
*
「安藤先輩、お土産送りました?」
「ああ、まあ。傷みにくそうなのをちょろっとな」
何の気なしに自分用の菓子が入ったビニール袋の中身を晶に見せて、夏彦はそそくさと車のトランクへ放り込み運転席へ向かう。
隣で同じく中身を見ていた大輔は、晶と顔を見合わせてひそひそと囁く。
「予想通りキビ団子だったが」
「チョコ味だったね。あれ、さっき二箱買ってたよ」
「それはそれは」
「電話で話すネタが増えるね」
「何やってるんだお前ら?早く乗れよー」
車窓から顔を覗かせる夏彦の催促に合わせるように、「お待たせしましたー」と、敦が庵と共に駆け寄ってくるのが見えた。
「随分遅かったな敦…あの重量じゃあ金かかっただろ?いきなり買いすぎじゃないか?」
大輔の指摘に、息せき切らせて駆けて来た敦は返す言葉もなくすみません、と頭を垂れる。
「まあまあ。昼ごはんがてら適当な所で休憩取りませんか先輩?」
「先輩俺もグリコーゲンが足らんであります」
俺も腹は減ったが、と夏彦はワンクッション置いて「ついでにどっかで早押ししていかねえか?」と切り出す。
「ヒゲ先輩アンアンは香川にもありますよ(・ω・)」
「まるゲってゲーセン気になるよねー」
「ええっちょっと待て俺ずっと運転してんのに四国までボタンお預けってか?…つうかお前ら地元民だろ?どっかありそうなゲーセン知らないの?駅前はやばいだろうから、人里離れた通なゲーセンとか」
「先輩メジャーなゲーセンを避けてくれようという心意気は感謝ですが、僕たちそもそもこれまでゲーセンに全然行かなかった人種なもので」
「同じくであります」
それ俺も調べたんすけど、と大輔もおそるおそる口を挟む。
「マジアカ設置店とアンアン設置店って必ずしもかぶってないからなぁ…岡山は俺も疎いし、四国のがベターだと」
「ぐっ、そうか…残念だが諦めるか…」
「その代わり、四国では結構遊べそうですよ。あの宇宙人アイドルも香川には来ないようだし、当分雲隠れ出来るんじゃないかと」
「へえー良かったねー庵」
「な、何で俺に振るんだよ!」
晶のクールな一言に庵が赤面すると、「それじゃあ、四国上陸したら噂になる前にさっさとトンズラだな!」と夏彦の愉快そうな大声が車内に響く。
「安全策で庵だけのどかさんちに匿っといてもらおうぜ」
「それで僕らは早押し三昧と」
「おー、それいいな!」
「えー俺も押す!ののちゃんと押すんだー!」
「先輩本音が!」
車内は和気藹々と、進路を倉敷・児島方面へ。
目指すは下津井、その先は宇野。…そして香川県高松市、屋島である。
【7月29日・岡山城は庭が本体・その頃香川の彼女は】
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