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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

アンラッキーマスへ一時停止。
*

「…」
うっすらと覚醒した意識で、最初に認識したのは天井の蛍光灯だった。
仄暗い白の天井と壁面。煤けた白熱灯。
エタノールの僅かな匂いと、清潔なシーツの感触。
窓から西日が射して眩しい。
夢の感触と同じ、汗が耳たぶから首筋に流れ落ちていく。
だけど、この感触は本物。

…。
俺は横になってるのか。
背中に感じるベッドのスプリング。
けだるい首を動かして部屋の中を見渡すと、その病室…病室と一目で分かった…には見覚えがあった。

「起きた?庵」
ドアがきい、ときしんで開く。外の生ぬるい温風が一瞬室内の温度を上昇させてすぐに閉じられる。
心配そうな晶の声で身体を起こそうとするも、「いいよ」と即座に眼前を掌で遮られて再び床へ横になる。

「あきら…」
「ボクが分かるなら平気かな?随分うなされてたよ」
晶はベッドの下から丸椅子を引き出すと、抱えていたプラスチックの桶に浸していた氷水たっぷりのおしぼりを固く絞る。
パンパン、と軽くほぐすと庵の額や頬をなぜる。最高に気持ちいい。

「そっか…」
けだるさの陰に残る不吉な声が耳の奥に残っているようで、重たい右手小指を立ててグリグリ耳の中に指を突っ込む。
耳鳴りがひどくなっただけで、事態が悪化して目眩が再発する。寝起きとはいえ、我ながらバカな行動をしている。

「耳の中おかしい?」
「ん、ちょっと。耳鳴り」
「いつもよりひどいね」
「ん。でも平気。あんがと」
「いーえ」

晶がおしぼりを氷水の桶で濯いでいる間に、寝ころんだまま部屋を見回す。

「ここ、俺んちの近所の…」
「うん、坂下の診療所。やばいかなとは思ったけど、僕らの家からは割と距離あるし他に良い病院とっさに思いつかなくて」
「分かるよ。…町中の病院はちょっと、な」
「ね」
晶も口に出さないが、声色で分かる。
家が医者一家だった阿古屋の親戚が、ここいらじゅうの病院にいるのは高校時代からみんな知っていた事だ。
別にもう接点などないのに、何となくそう思うだけで足先を明後日の方へ向けたくなる。それに、あいつと関わってる親戚縁者の病院で万一騒ぎでも起こしたら顰蹙を買うのは目に見えてる。晶のナイスな判断。

庵もここに来てた?と訊ねる晶に、鼻先で「ん」と答える。

「ここ、ウチのかかりつけ医なんだ。先生とも割とツーカーだしね」
「ごめんな」
「何が?」
「感覚的にだけど、もう半日経ってるだろ。悪い、俺のせいで足止めして」
「いいよ。元々君が始めた企画でしょ?船頭がいないと始まらないよ」
「だけど」
簡単な詫び文句の羅列を晶はおしぼり攻めで封殺する。固く絞られたおしぼりが一回、二回とパンパンと開いてシワを伸ばされ、即座に顔や首元にあてがわれる。
「言い訳はいいよ。少し休みなって」
「んむー…」
「いきなり図書館開館しすぎたんじゃない?今度から、虫干ししながらにしなよ」
「んー」
「はいよろしー」
ああだこうだと言わない代わりに、何でもツーカーで通じる空気。晶と居ると気持ちのいい空間が出来上がる。不思議な感触。
癒されるって表現で概ね合ってる気がする。友達っていいな。

「一応先生には親に言うなって口止めしておいたから、明日一日ここで横になっておきなよ。僕らは適当な宿泊先見繕ってくるから」
「ゴメン」
「いいよ。それに」
「?」
「庵が寝てる間にのどかさんへフォローの電話して分かったけど、明日明後日は岡山で足止めだね。
台風四号が接近してて、今鹿児島の南海上にあるって。
中心気圧が975?とか言ってた。超巨大な奴。
今晩から明日の昼頃まで九州に上陸して、明日の深夜には中四国へおでましだって。抜けきるのはしあさってらしい。明日の午後からはフェリーに欠航も出そうだし瀬戸大橋上の高速道路もダメになりそうだし。天気には逆らえないもの」

「ウボァー…」

まさかの天候悪化でダブルパンチを食らったような気分に陥いる。
海の向こうが遠ざかる。瞼の裏に描く、彼女の残像が遠ざかる…。

「おいっす。どうだ庵は?」
へこんでいた所に、カラッと明るい声の主がぞろぞろと室内に入ってくる。もわっ、と温い空気がクーラーの効いた室内にたれこめてすぐに消える。
涼しいのもいいけど、なんだか外の生ぬるい温度が恋しく感じられるのは何故だろう。
まだ全身だるくてカッカしてるのになあ…とぼんやりし続けている頭でそう思った。

【7月29日夕方・晶君はずっと看病していたようです・その間他メンバーはご飯と調達・続く】












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