瀬戸内地方の夏の食卓。(ハイカロリー編)
*
「ほんじゃあ」
二階から下りてそのまま玄関へ向かう哲平の姿に、庵母がそそくさとついていく。
「あらいいの哲平君、ご飯食べていったら?鶏カラ包んで持って帰るかい?」
「いや、悪いっすから。それと庵と話も出来たし。ありがとねおばちゃん」
名残惜しそうな庵母を残し、哲平が靴を履いていると「帰るの?」と晶も顔を出す。
「おっ、晶。庵、感謝してるっぽかったぞ。お前等マジ仲いいね」
「哲平には負けるよ。赤ん坊の頃からの仲なのに」
「アッハハ、俺は覚えてねえけどな!でさ」
「ん、何?」
にこやかだった哲平の表情が急に引き締まる。
「庵、気をつけておいてくれな。今は大丈夫だろうけど」
「…あ、うん。普段も気をつけてる。餓死しないように」
「ふーん…そっか。まあ、大丈夫だな。わり、じゃあ俺行くわ。また正月にでもゆっくり話そうぜ!」
いつもと変わりない砕けた笑顔で去っていった幼馴染みの後ろ姿が一瞬だけ気になったものの、晶がその事を思い出すのはもう少し先の話。
*
夕食時。
呼ばれて台所へ向かうとそこにはテーブル一杯に山盛りの食事が。
「さっきはごめんなさいねえ」
明日香は憎まれ口ばっかり叩く子だから、ちょっとすねてるだけなのよ、と二十歳過ぎた娘をやんわりと庇う庵母にメンバーたちも愛想笑いを返すに留める。
「にしてもおばさん、作りすぎですよ。僕たち押しかけてきたのに」
「まあまあ、そんな遠慮は無しよ!こっちも久々に男の子相手だから作りでがあったわあ!さあさ、食べて頂戴な」
「ゴチになります!」
食卓に立ち込める、醤油となたね油のこんがり香ばしい匂いが胃腸を刺激する。
夏バテしてない身体の回復力に感謝。
【今日の献立】
・ゲタの煮付け
・マナガツオの照り焼き
・鶏の唐揚げ山盛り
・ポテトサラダ
「晶先輩、ゲタって何ですか?」
「舌平目のことだよ。ほらこの平べったいの」
「えっ…って、ねずりの事ですか!」
「んん?そっちじゃあ舌平目は=『ねずり』っていうの?」
「は、はい。小さい頃に煮付けでよく食べました。でもこれ高級魚…」
「いや、割とゲタは庶民的。僕、離乳食に食べてたらしいし。どっちかというとマナガツオの方が高級魚だよ」
と、晶の指差す皿の上には、…マンボウをスリムにしたような平べったい魚の照り焼きが。
「………初めて見ます(汗)」
「俺も久しぶりに食べる。美味いよな」
「俺も神戸で一回食べたきりだからなぁ」
「ええっ何で皆さん食べてるんですか!そんなポピュラーな魚なんですか?」
「えー」「だって」「西日本じゃ割と」 「…」
大輔→福岡・鹿児島
晶→岡山
夏彦→山陰・兵庫
敦→新潟
そう、実は敦だけ東日本出身。
初めて見る愛嬌たっぷりな丸顔の魚類にちょっとおっかなびっくりしているようである。
「それなら敦、メシのついでに一問出してやろう。
【マナガツオ、こんな姿だがれっきとしたカツオ目の魚である】○か×か」
大輔の問題に、敦はアゴに飯粒を付けたまま「ま、…○!」と即答する。
「はいブー。正解は×。スズキ目・イボダイ亜目なんだぞ、これ」
「じゃあなんでカツオ…」
「カツオが手に入らなかった地域で代用に使われてたからだよ。で、本家カツオが獲れる時期に一緒に入ってくるから、こっちを真のカツオ=真魚鰹って名前にしちゃおうっていうのが名前の由来だって。東日本では取れない魚だから見たことなくても無理ないよ。西海に鮭なく、東海に真魚鰹なしっていうくらいだし」
「へえ、晶先輩流石です~」
「まあね。という訳で一口食べてごらん。美味しいから」
敦、マナガツオ初体験の感想は。
「あっさりしててなおかつ旨味しっかりで柔らか美味しいです!」
「ね?美味しいでしょ。新鮮なマナガツオは最近手に入らないから貴重品だよ。お刺身にして食べるのが最高ってネットで見るけど、傷みやすいから午前中に水揚げしたら午後には生食はやめろって小さい頃きつく言われたくらいだったし。ほとんどあんかけや照り焼きがベターな調理法だね。どっちでも美味しいよ」
「まあ凄いわねえ晶君!市場で良いの買って冷凍しておいたかいがあったわあ~」
「いえいえおばさん、マナガツオって冷凍しても鮮度落ちないですもんね。しかもこんな大物いただいて、申し訳ないくらいですよ」
「(詳しいな晶…)」
「(やっぱり料理は趣味でやってるな)」
おぼっちゃんなのに自炊が趣味とは変わってるなあと、褒め言葉の代わりにそっと思う夏彦であった。
「ご飯食べたら果物切るからね。清水白桃とピオーネよ~」
「おばさんまた高級品買って…本当にごめんなさい…」
「やっだあ晶君たら!こんな機会でもないと食べないからいいのよぉ~」
「清水白桃とピオーネ…」
「敦君、両方とも高級品。清水白桃は地元の桃ブランド、ピオーネは巨峰みたいな葡萄だよ」
「うわあ、有り難うございます!」
喜ぶ敦の顔に、「可愛い子だねえ」と庵母の目尻がでれっと下がった。
【7月29日夜・ご飯は残さず食べました・続く】
「ほんじゃあ」
二階から下りてそのまま玄関へ向かう哲平の姿に、庵母がそそくさとついていく。
「あらいいの哲平君、ご飯食べていったら?鶏カラ包んで持って帰るかい?」
「いや、悪いっすから。それと庵と話も出来たし。ありがとねおばちゃん」
名残惜しそうな庵母を残し、哲平が靴を履いていると「帰るの?」と晶も顔を出す。
「おっ、晶。庵、感謝してるっぽかったぞ。お前等マジ仲いいね」
「哲平には負けるよ。赤ん坊の頃からの仲なのに」
「アッハハ、俺は覚えてねえけどな!でさ」
「ん、何?」
にこやかだった哲平の表情が急に引き締まる。
「庵、気をつけておいてくれな。今は大丈夫だろうけど」
「…あ、うん。普段も気をつけてる。餓死しないように」
「ふーん…そっか。まあ、大丈夫だな。わり、じゃあ俺行くわ。また正月にでもゆっくり話そうぜ!」
いつもと変わりない砕けた笑顔で去っていった幼馴染みの後ろ姿が一瞬だけ気になったものの、晶がその事を思い出すのはもう少し先の話。
*
夕食時。
呼ばれて台所へ向かうとそこにはテーブル一杯に山盛りの食事が。
「さっきはごめんなさいねえ」
明日香は憎まれ口ばっかり叩く子だから、ちょっとすねてるだけなのよ、と二十歳過ぎた娘をやんわりと庇う庵母にメンバーたちも愛想笑いを返すに留める。
「にしてもおばさん、作りすぎですよ。僕たち押しかけてきたのに」
「まあまあ、そんな遠慮は無しよ!こっちも久々に男の子相手だから作りでがあったわあ!さあさ、食べて頂戴な」
「ゴチになります!」
食卓に立ち込める、醤油となたね油のこんがり香ばしい匂いが胃腸を刺激する。
夏バテしてない身体の回復力に感謝。
【今日の献立】
・ゲタの煮付け
・マナガツオの照り焼き
・鶏の唐揚げ山盛り
・ポテトサラダ
「晶先輩、ゲタって何ですか?」
「舌平目のことだよ。ほらこの平べったいの」
「えっ…って、ねずりの事ですか!」
「んん?そっちじゃあ舌平目は=『ねずり』っていうの?」
「は、はい。小さい頃に煮付けでよく食べました。でもこれ高級魚…」
「いや、割とゲタは庶民的。僕、離乳食に食べてたらしいし。どっちかというとマナガツオの方が高級魚だよ」
と、晶の指差す皿の上には、…マンボウをスリムにしたような平べったい魚の照り焼きが。
「………初めて見ます(汗)」
「俺も久しぶりに食べる。美味いよな」
「俺も神戸で一回食べたきりだからなぁ」
「ええっ何で皆さん食べてるんですか!そんなポピュラーな魚なんですか?」
「えー」「だって」「西日本じゃ割と」 「…」
大輔→福岡・鹿児島
晶→岡山
夏彦→山陰・兵庫
敦→新潟
そう、実は敦だけ東日本出身。
初めて見る愛嬌たっぷりな丸顔の魚類にちょっとおっかなびっくりしているようである。
「それなら敦、メシのついでに一問出してやろう。
【マナガツオ、こんな姿だがれっきとしたカツオ目の魚である】○か×か」
大輔の問題に、敦はアゴに飯粒を付けたまま「ま、…○!」と即答する。
「はいブー。正解は×。スズキ目・イボダイ亜目なんだぞ、これ」
「じゃあなんでカツオ…」
「カツオが手に入らなかった地域で代用に使われてたからだよ。で、本家カツオが獲れる時期に一緒に入ってくるから、こっちを真のカツオ=真魚鰹って名前にしちゃおうっていうのが名前の由来だって。東日本では取れない魚だから見たことなくても無理ないよ。西海に鮭なく、東海に真魚鰹なしっていうくらいだし」
「へえ、晶先輩流石です~」
「まあね。という訳で一口食べてごらん。美味しいから」
敦、マナガツオ初体験の感想は。
「あっさりしててなおかつ旨味しっかりで柔らか美味しいです!」
「ね?美味しいでしょ。新鮮なマナガツオは最近手に入らないから貴重品だよ。お刺身にして食べるのが最高ってネットで見るけど、傷みやすいから午前中に水揚げしたら午後には生食はやめろって小さい頃きつく言われたくらいだったし。ほとんどあんかけや照り焼きがベターな調理法だね。どっちでも美味しいよ」
「まあ凄いわねえ晶君!市場で良いの買って冷凍しておいたかいがあったわあ~」
「いえいえおばさん、マナガツオって冷凍しても鮮度落ちないですもんね。しかもこんな大物いただいて、申し訳ないくらいですよ」
「(詳しいな晶…)」
「(やっぱり料理は趣味でやってるな)」
おぼっちゃんなのに自炊が趣味とは変わってるなあと、褒め言葉の代わりにそっと思う夏彦であった。
「ご飯食べたら果物切るからね。清水白桃とピオーネよ~」
「おばさんまた高級品買って…本当にごめんなさい…」
「やっだあ晶君たら!こんな機会でもないと食べないからいいのよぉ~」
「清水白桃とピオーネ…」
「敦君、両方とも高級品。清水白桃は地元の桃ブランド、ピオーネは巨峰みたいな葡萄だよ」
「うわあ、有り難うございます!」
喜ぶ敦の顔に、「可愛い子だねえ」と庵母の目尻がでれっと下がった。
【7月29日夜・ご飯は残さず食べました・続く】
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