回想。後悔。そして。
*
いったい、誰が一番悪かったのだろう。
誰が、こんな悲劇を呼んだのだろう。
だが、はっきり分かっている事がある。
日向二葉という名の、何の罪も無かった少年を壊したのは俺だ。
俺が葛センパイに手を出さなければ、フタバは家に取り残され孤独な思いなどしなかったはずだ。
俺がガラティアのフェイスモデルを別人に変えていれば、嫉妬に狂った父親に地下室で拷問に会う事もなかったかも知れない。
父親が「妻の復活と再生」などと、馬鹿げた事を考え、何十人も子供を殺める事はしなかったかも知れない。
俺が安易にペルソナ様など教えなければ、そもそも実験に関わる事もなかっただろう。
ガラティアともアイギスとも遭遇せず、死神を宿し苦しむ事もなかっただろう。
俺の欲が、無垢な少年の大切な時間と思い出を、ぶちこわしにしたのだ。
9年間の空白は、俺の一生をかけて償わなければならない、双葉の深い傷跡。
だが、それすらも本人は覚えていない…。
フィレモン、俺は間違い続けた選択肢を選んで取り返しの付かない事をしちまったよ。
どうせどこかでせせら笑ってんだろ?
「おとうさん」
双葉が、俺をそう呼ぶ度に、最初はたまらなく辛かった。
笑いかけて俺に擦り寄ってくる度、何度「やめろ」と叫びたくなったか。
責められているのではないと分かっているのに、双葉が無償で俺を愛し、父親として何のてらいもなく甘えてくるのが、一番精神に堪えた。
満点のテストを持って帰って、
俺のために飯をよそって、洗濯し、掃除し、
毎日「いってらっしゃい」「おかえり」と笑って答えてくれる…。
お前、覚えてないんだろう?
お前が不幸になったのも、
かあちゃんが父ちゃんに酷い殺され方したのも、
父ちゃんが嫉妬に狂ったのも、全部俺のせいなんだぜ。
だから、そんなに俺に良くしないでくれ。
俺はお前の理想の父親なんかじゃない、醜い男なんだよ…。
『ああ、本当に醜い男だよお前は。吐き気がするね』
病床の俺の耳元に、醜い俺の声がする。
八年前のあの日から、フタバに寄り添う俺にツバを吐き、罵りを浴びせる、「悪夢」の内に住まう「もう一人の」俺の声が。
『今更懺悔したところで、どうしようもなかろう?それにもう自分はくたばるって言うじゃないか。何をそんなにびびってんだ?』
_びびってる?馬鹿言えよ。
俺は何も怖かない。
むしろ頭の一部が痺れてるのかも知れん。恐怖は無いんだ。
『じゃあ、今は何が怖いんだ?』
_…そうだな。死ぬのは怖くない。きっと、それよりも…。
*
全ての編集ビデオを閲覧した後、俺は仲間に命じ、記録の全てを廃棄すると、研究所と孤児院に火を放ち、研究の一切をこの世から消し去った。
当然、桐条本部は俺達の判断を責め立てたが、それ幸いと全員で職を辞し、桐条から離れていった。
無論、桐条内部での事は他言しない・反抗を企てない等と厳密な誓約を立てた上での離散で、桐条も今後俺達の過去に関わらないとの約束だったが、それから半年内に俺と堂島、榎本を除くメンバーが次々に変死し、後に日向の情報を本部へリークしたのが幾月だったと堂島からのメールで知った時、俺は全ての合点がいったような気がした。
変死の原因=幾月が未だ桐条において健在な今、どうすれば双葉を守ってやれるのか。
陽一は最期の仕事だ、と自分に言い聞かせ、毎夜ごと悪夢で目を覚ましては、部屋に落ちる濃い月光の下でMP3プレイヤーを無言で眺めていた。
何も妙案が思いつかぬまま眠りに落ち、けだるい陽光に目を覚ますと薄曇りの空がカーテンのすそから覗く。
薄明かりのような昼間の残光に空かして、食事用の卓上に置いたMP3プレイヤーとイヤホンが鈍く光っていた。
_おとーさん、お誕生日おめでと。これ、プレゼント。
_初めてバイトしたら、何か絶対おとーさんに贈ろうと思ってたんだ。
_おとーさん、音楽好きなのにいつも壁が薄くて聞けないってぼやいてたもんね。
_え?いいよ、気にしないで。僕、お父さんの喜ぶ顔が、見たかっただけだから。
ね?だから受け取って。いつもありがとう、おとうさん…。
あいつの声を、笑顔を思い出すたび、目の奥が熱くなる。
あいつを一人にしたくない。
手放したくない。ずっと側にいてやりたかった。いや、いてほしかった。
たとえ全てを知られて、誰より憎まれる日が来るはずだったとしても…。
双葉。
会いたい。
今、ちゃんと元気にしてるのか?
学校行ってるのか?
笑ってるか。泣いてるのか。それとも辛い思いしてやしないか…。
泣きそうなまぶたを押さえて、ただ暗闇で煩悶し、己の孤独を思い知る。
そうだ。
俺は一人だった。
ずっとお人好しのふりして身勝手に生きて粋がって、結局誰にも本性を晒す事すらしなかった…。
堂島、お前は俺の事恨んでるだろうな。
結局、俺は最後まで逃げ続けて、お前に尻ぬぐいさせてばかりだ。
榎本はどうなんだろう。
あいつ、真性の善良人間だからきっと心配してるよな。すまん。
双葉。今どこにいるんだ。
会いたい。
お前に会いたい…。
いったい、誰が一番悪かったのだろう。
誰が、こんな悲劇を呼んだのだろう。
だが、はっきり分かっている事がある。
日向二葉という名の、何の罪も無かった少年を壊したのは俺だ。
俺が葛センパイに手を出さなければ、フタバは家に取り残され孤独な思いなどしなかったはずだ。
俺がガラティアのフェイスモデルを別人に変えていれば、嫉妬に狂った父親に地下室で拷問に会う事もなかったかも知れない。
父親が「妻の復活と再生」などと、馬鹿げた事を考え、何十人も子供を殺める事はしなかったかも知れない。
俺が安易にペルソナ様など教えなければ、そもそも実験に関わる事もなかっただろう。
ガラティアともアイギスとも遭遇せず、死神を宿し苦しむ事もなかっただろう。
俺の欲が、無垢な少年の大切な時間と思い出を、ぶちこわしにしたのだ。
9年間の空白は、俺の一生をかけて償わなければならない、双葉の深い傷跡。
だが、それすらも本人は覚えていない…。
フィレモン、俺は間違い続けた選択肢を選んで取り返しの付かない事をしちまったよ。
どうせどこかでせせら笑ってんだろ?
「おとうさん」
双葉が、俺をそう呼ぶ度に、最初はたまらなく辛かった。
笑いかけて俺に擦り寄ってくる度、何度「やめろ」と叫びたくなったか。
責められているのではないと分かっているのに、双葉が無償で俺を愛し、父親として何のてらいもなく甘えてくるのが、一番精神に堪えた。
満点のテストを持って帰って、
俺のために飯をよそって、洗濯し、掃除し、
毎日「いってらっしゃい」「おかえり」と笑って答えてくれる…。
お前、覚えてないんだろう?
お前が不幸になったのも、
かあちゃんが父ちゃんに酷い殺され方したのも、
父ちゃんが嫉妬に狂ったのも、全部俺のせいなんだぜ。
だから、そんなに俺に良くしないでくれ。
俺はお前の理想の父親なんかじゃない、醜い男なんだよ…。
『ああ、本当に醜い男だよお前は。吐き気がするね』
病床の俺の耳元に、醜い俺の声がする。
八年前のあの日から、フタバに寄り添う俺にツバを吐き、罵りを浴びせる、「悪夢」の内に住まう「もう一人の」俺の声が。
『今更懺悔したところで、どうしようもなかろう?それにもう自分はくたばるって言うじゃないか。何をそんなにびびってんだ?』
_びびってる?馬鹿言えよ。
俺は何も怖かない。
むしろ頭の一部が痺れてるのかも知れん。恐怖は無いんだ。
『じゃあ、今は何が怖いんだ?』
_…そうだな。死ぬのは怖くない。きっと、それよりも…。
*
全ての編集ビデオを閲覧した後、俺は仲間に命じ、記録の全てを廃棄すると、研究所と孤児院に火を放ち、研究の一切をこの世から消し去った。
当然、桐条本部は俺達の判断を責め立てたが、それ幸いと全員で職を辞し、桐条から離れていった。
無論、桐条内部での事は他言しない・反抗を企てない等と厳密な誓約を立てた上での離散で、桐条も今後俺達の過去に関わらないとの約束だったが、それから半年内に俺と堂島、榎本を除くメンバーが次々に変死し、後に日向の情報を本部へリークしたのが幾月だったと堂島からのメールで知った時、俺は全ての合点がいったような気がした。
変死の原因=幾月が未だ桐条において健在な今、どうすれば双葉を守ってやれるのか。
陽一は最期の仕事だ、と自分に言い聞かせ、毎夜ごと悪夢で目を覚ましては、部屋に落ちる濃い月光の下でMP3プレイヤーを無言で眺めていた。
何も妙案が思いつかぬまま眠りに落ち、けだるい陽光に目を覚ますと薄曇りの空がカーテンのすそから覗く。
薄明かりのような昼間の残光に空かして、食事用の卓上に置いたMP3プレイヤーとイヤホンが鈍く光っていた。
_おとーさん、お誕生日おめでと。これ、プレゼント。
_初めてバイトしたら、何か絶対おとーさんに贈ろうと思ってたんだ。
_おとーさん、音楽好きなのにいつも壁が薄くて聞けないってぼやいてたもんね。
_え?いいよ、気にしないで。僕、お父さんの喜ぶ顔が、見たかっただけだから。
ね?だから受け取って。いつもありがとう、おとうさん…。
あいつの声を、笑顔を思い出すたび、目の奥が熱くなる。
あいつを一人にしたくない。
手放したくない。ずっと側にいてやりたかった。いや、いてほしかった。
たとえ全てを知られて、誰より憎まれる日が来るはずだったとしても…。
双葉。
会いたい。
今、ちゃんと元気にしてるのか?
学校行ってるのか?
笑ってるか。泣いてるのか。それとも辛い思いしてやしないか…。
泣きそうなまぶたを押さえて、ただ暗闇で煩悶し、己の孤独を思い知る。
そうだ。
俺は一人だった。
ずっとお人好しのふりして身勝手に生きて粋がって、結局誰にも本性を晒す事すらしなかった…。
堂島、お前は俺の事恨んでるだろうな。
結局、俺は最後まで逃げ続けて、お前に尻ぬぐいさせてばかりだ。
榎本はどうなんだろう。
あいつ、真性の善良人間だからきっと心配してるよな。すまん。
双葉。今どこにいるんだ。
会いたい。
お前に会いたい…。
トラックバックURL↓
http://3373plugin.blog45.fc2.com/tb.php/45-7fd4c4fc
| ホーム |