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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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憧れから隣人へ。
*

29日深夜。と言っても日付は既に変わっているような気がする。
夜中にふと目を覚ました敦は、真っ暗な室内を横になったままぐるりと見渡す。

豆電球も消えた、薄暗い室内。
既に揚げ物の油臭さは消え、代わりに畳替えしたばかりらしいイ草の匂いが布団の裏からほのかに漂ってくる。
腹の上には薄手のタオルケットの感触。
横を見れば、晶の寝癖で乱れた後頭部と丸まった背中が見える。
微かな寝息をぼんやり聞きながら、ふと己の現状を思い出す。

「(…ここが、庵先輩のお家…)」
天井を見上げれば、うっすらホコリを被った電灯にシミの浮いた板張りの天井。
カベには何かテープで貼った跡。カサカサなセロテープのカス。
箪笥の上には古びた木製の芸子人形や童の焼き物が無造作に置かれて、すっかり日焼けしてしまっている。
引き戸や側面には幾つも付いた傷跡にひっかき傷。よくよく見ると、古い戦隊もののシールが色褪せたまま隅っこに貼り付けてあった。
年月の痕跡がそこかしこに見つかる部屋。

「(…この家で、庵先輩はずっと育って、大きくなったんだ…)」
胸の奥で、感激にも似た熱い高揚を感じて敦は目が冴えてくるのを感じた。

ずっと憧れていた「アンサー庵」と、会えないまでもせめて同じ大学に行ってみたい。
そこで経済学を学びながら、東京で好きなように四年間だけ暮らしてみたい。
ワガママな弟も、蔵の跡取りと言う肩書きも、一度新潟に置いたまま、自分だけの場所が欲しかった。
元々クイズ番組が好きだった父の影響もあって、一生で一度の無謀な願いを父は快く快諾してくれた。
大学受験のためとはいえ、あんなに必死に真面目に勉強した覚えは無い。

それほど、自分は庵に憧れていた。
自分には逆立ちしたって出来っこないような難問奇問も涼しい顔で答えを解き明かしていく姿が、惚れ惚れとするほど格好良かったから。
テレビの向こうでしかない遠い存在を身近に感じたくて、という不純な動機から始まった東京生活で、あれよあれよと言う間に世界が一変して。

偶然、庵と知り合った。
後輩として可愛がってもらって、同じサークルのメンバーになった。
頻繁に話をしてもらえるようになって、気付けばテレビのブラウン管越しだった世界がこんなにも近しいものとなっていた。
数日前には思わぬサプライズを経て旅行にまで同行させてもらえてる。
そして、今日は憧れのヒトの自宅で大層なもてなしの上、一泊させてもらえるとは。

ボク、最近ラッキー過ぎかも。
そう思うと、興奮して眠気も明後日の方へと飛んでいってしまった。

「眠れない?」
ふいに、背中越しに晶の声が聞こえて「ひょっ」と素っ頓狂な声を出してしまう。
背を向けたまま、晶がクスクス笑っているのが背中の震えで分かった。

「落ち着かないか、庵の家なんて滅多に上がる機会無いだろうし」
「は、はい…」
深夜の室内に、ひそひそと囁きあう。思えば晶も遠い遠い存在だったはずなのに、こうして横で隣同士になっている不思議。

「敦はホントに庵好きだよねー。僕も嫌いじゃないな。むしろほっとけない感じ。放置しておくと気になるんだよね」
「嫌いじゃないだなんて…晶先輩が一番庵先輩の側にいるのに。見ててもとっても仲良いじゃないですか」
「まあね。ホントに腐れ縁。でも僕、哲平…今日来た青果店の彼と、庵がどれだけ仲良いか知ってるから、実質僕は二番手だな」
「そんな事無いですよぅ。僕、晶先輩偉いなって思います。庵先輩ってその、…家事全然だけど、晶先輩何でも出来るから、実質二人前こなしてるような感じで」
「それは否定出来ないね(笑)」
「今日も料理の話聞いてて思いました。晶先輩、何でもそつなくこなして勉強も料理も家事も出来て。なおかつ優秀で…」
「優秀さは庵に負けてる。それは小1の頃からずっと。それでも庵がいつも一番だったから、僕は他の学校でなら一位だったねーなんて吹かしてみたりとか」
「へえ…」

「敦、それにね。普段は僕が庵を助けてるように見えるだろうけど、僕は庵に一番大事な時に、助けてもらってるんだよ。
あの時、庵が来なかったら、僕ここで君と話も出来なかったかも知れない。ここに居たかどうかすら …分からないくらいだった」

「えっ」
「家族の誰にも吐き出せないような辛さを、一緒に泣いてくれた事もある。だから、今僕がしてる事はささやかなもの。庵は良くマスコミに冷血だとか、偏屈で高慢な奴みたいに書かれる事があったけどそれは間違い。彼は優しいよ。もう敦にも分かってると思うけど」
「先輩…」
クーラーの涼しい空調音に、優しい沈黙が染みる。

「だから、今は少し労ってあげてね。天才でも、感性や感情は普通の僕らと変わりないんだから。でも、そのくせ知らないウチに周りに気を遣いすぎてクタクタになってるような奴で。時々目に見えない所で無茶しても隠してる事があるから、気付いてあげないといけないんだけど…巧妙に隠しすぎるからなぁ」
「庵先輩って…そんなに複雑かなぁ…」
「割と、ね」
ふう、と晶が大きく息を静かに吐くのが聞こえた。

「…また今度、機会があれば話してあげるよ。今日は二階で庵も寝てるしね。聞こえやしないだろうけど、何だか小っ恥ずかしいし」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
話はそこで途切れて、敦も晶の背中の静かな寝息を聞きながら、ゆったりとまどろみに落ちていった。

【7月29日~30日深夜・その頃台風四号は九州地方に上陸・嵐の前の静けさ・続く】












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