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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

晶君、お迎えですよ。
*

階下にも聞こえるほどの大声を張り上げたのち、大輔は何事も無かったかのように涼しい顔で二階から降りてきた。

「だ、大輔さん上で何が」
「んん?ちょっとな。…すみません、メシもらいます」
そう言うと空いた席に腰掛け黙々と朝食を食べ始めた大輔に、周囲もそれ以上突っ込む事は言わず、そのままテレビのニュースをおかずにまったりとした時間が流れる。

「あの」
「はいはいおかわりかい?たくさん食べなよ、足りなくなったら作るから」
「あ、いやそうじゃなくって…後で、塩借りてもいいっすか」
「え?いいけど…今じゃなくってかい?そこのそれ、ゆでたまごにかけて食べたら美味しいわよねぇ」
「いや出来たら自然塩で玄関に盛り塩したかっただけなんすけど」
「ええっ?」
頼んでもないのに卵の殻をむきむきする庵母の手が、ぎょっと目を剥いて止まる。

「(大輔さん…)」
「(また見えてるのか…)」
事情を知っている晶と敦の隣で、夏彦は「何の話をしてるんだお前?」とあからさまに顔をしかめる。

「まだ盆でもないし、意味ないだろう?ああいうのは気休めなんだから、塩使うなら握り飯作った方が効率的だろうに」
「・・・(やっぱ、昨日話さなくて正解だったな…)」
己の判断の正しさを察して、大輔が心中苦笑いを浮かべていると、もっさりとした足音をさせて庵も台所に顔を出した。

「まあ、おはよう庵!どうだい?熱下がったかい?」
「・・・…ん」
先程の2.5倍ほどハリのある陽気な声色で息子を出迎える母に対し、庵は鼻先で返事をしたのみでのそりのそりとだるそうに冷蔵庫を開ける。

「庵、ごはんは」
「いいよ晶残りもので。すぐ寝る」
「先輩おはようございます」
「おはー」
「まだ気分悪いのか」
「ちょぼっと。ヒゲ先輩鼻毛出てるよ」
「ぬおっ!?」
「大輔さんあんがとね」
「構わん。メシ食っとけ」
「んー…固形物はやっぱまだちょっと」

「庵どうしたんだい?飲み物なら下の段に…」
庵母が、息子が冷蔵庫内を物色する背中に何か言いかけた瞬間、外から激しいクラクション音が聞こえた。

プーップーップーッ… 事故でもあったのか、ひっきりなしに鳴らしている。

「あらやだ騒がしいねえ、しかもウチの前」
「この音は…」

プップープップーップーップーープッッププップッププップップップッッップウウウ…

状況を瞬時に把握し、晶は即座に席を立つと玄関から一目散に外へ出る。
玄関前の坂道に、件のクラクション音で周囲の安眠を妨げる張本人の車…黒塗りのリムジンがあった。

「兄さんっ!!クラクションでビート刻むの止めて下さいよっ!!近所迷惑でしょうがっ!!」
晶の怒声に、一瞬にしてクラクション音が鳴りやんだ。
周囲からは何事かと顔を出したり姿を見せるご近所の方々の姿も。視線が痛い。
事態にいち早く気付いて眉を吊り上げるスウェット姿の弟に、早朝からびしっと黒のサマースーツを着こなした晶の兄・聡文が颯爽と車内から降りて「いよーう!」と手を掲げた。

「兄さんなんですかこれ!!」
「晶ー!お迎えに来たぞ!さあさっさとそんなださい服着替えて、男前にイケメンチェンジして車に乗り込むんだ!ああそうそう、お友だちも一緒に乗せていくからね。あのツン毛のサルは置いて、とっとと着替えてくるくる!」
朝っぱらからノリノリメーターフルスロットルな兄の姿に、晶の眉間がヒクヒクと痙攣を起こす。
「またそういう身勝手な事を!しかも朝一番でリムジンとか、どんだけ嫌がらせすれば気が済むんですかっ!」
「何を言う!お前が帰ってくるというから、昨晩からお義母さんと一緒にワクワクテカテカしながら待っていた俺の気持ちを何だと思っている!!今朝は早朝四時から起きて腹筋二百回とスクワット五百回しても落ち着かないからご近所のちびっ子と一緒にラジオ体操までこなしてお前の連絡を待っていたという、この兄の気持ちがみじんも感じられないと言うかっ!」
感じたくありません。むしろ庵の家にご迷惑かけるでしょっ!ああもう…って、兄さん?!何で居るの!?東京じゃないのっ!?」
「ええっ今更?」
気付くの遅いぞーっ、とニヤニヤしながら手を振る聡文の背後、リムジンの運転席を覗いて晶の顔色が更に青白くなる。

「た…帯刀までいる…どうしよ、どうしよう…」
棒立ちのまま真っ青になっている晶のただならない様子に、見かねて玄関へ出てきた敦が「どうしたんですか?」とおそるおそる訊ねる。
「帯刀…あの運転席に座ってるいかついアゴヒゲのおじさん見える?敦」
「あ、はい。ちょっと怖そうな黒スーツの」
「あの人、父の側近中の側近。僕が安住の家に入った頃からずっと居る秘書さん」
「はあ」
そうなんですかー、と聞き流す敦に、晶は涙目で「気付かない?」と怖々顔を向ける。その顔たるや、鬼を目の前にした子供のような涙目を浮かべている。
「いえ、何がでしょう」
「政治家の秘書が、二人揃ってバカンスなんかしてると思うの?…僕の兄は、今父のタイムマネジメント一手に引き受けてるはずだよ」
「えーっと、それって一体」
「敦、連想苦手だっけ」
「いえそんな事はっ!…って、あ」
敦もようやく事の重大さに気付いて、細い目を(それでも細いのだが)見開いて「嘘っ!」と叫んだ。

「安住虎太郎!」
ビンゴ、と弱々しく情けない声色で、敦の返答に晶は実父の名前を出され弱々しく親指を立てる。

「家に帰ってるぽい。理由は定かじゃないけど…家に、父が、いる、確率が高い。というか絶対居るこれは」
最悪だあ…と呟いてその場にしゃがみ込んだ晶に、情け容赦なく、聡文の声が止めを刺す。

「と言う訳で晶!今日は逃がさないぞ!というか大先生の厳命だっ!さあ分かったらさっさと支度してこいっ!」
茶化しながらも声音が真剣味を増した事で晶の顔から血の気が引いたのは言うまでもなかった。

【7月30日・実家では支度真っ最中・晶涙目・庵は卵を一口・続く】












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