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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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山の上の若奥様。
*

坂道を緩やかにリンカーンは登っていく。
出発地点は戸建て住宅が密集していた風景も数分の上り坂で雑木林に挟まれる形となり、急カーブの多い斜面をくねくねとなめらかに滑っていく。
あの筋肉黒服はやはり側近と言うべきか、慣れた手さばきで揺らしもせずに車を駆っている。
更に五分も経てば周囲に人家はなくなり、鬱蒼としたウバメガシ林の代わりに背の高い竹林が両脇で涼しげに揺れているのが見え始めた。
先程の林と違いただ無造作に放置された感は無く、手入れされた様子を見て取って安住家敷地に入った・もしくは近隣に入ったのがすぐさま見て取れた。
竹林がふいに開け、初夏の陽光がスモークガラスを通して薄く車内に差し込む。
一瞬目を細めると、小高い丘陵の頂に、低木の生け垣に囲まれた広い邸宅の姿が坂下から見えた。

おおっ、と二人とも声に出さずとも口を一瞬開きかける。
一見しても相当な坪数の土地に、二重三重に囲われた生け垣。
周囲はぐるりと街下を見下ろす開けた山頂に立つ屋敷。
生け垣の上から立派な瓦葺きの屋根だけが覗く邸宅の中央には、大降りの見事な大松が枝を震っていた。
見事なまでの、純和風建築の出現に揃って目を見張る。

「もうすぐだよ」
気を取り直してしつこく密着してくる兄の脇腹を利き腕の肘鉄で力一杯押しやりながら、晶は対面している二人に精一杯の笑顔を見せた。
「こらそこじっと見ない。晶が照れて素直になってくれないだろう」
「いつもこうじゃないですか何言ってるんですか兄さん」
「照れなくていいんだよ晶君。さあどんとこい、そして肘どけなさい」
「丁重にお断りします」

「(正直、うぜえ…)」
顔に表情が出ているであろうと思いながらも、隠す気も起こせぬまま大輔は頬を引きつらせる。
晶が一人暮らししている理由を、この数分の乗車できちんと理解し苦労のほどをしのばずにはおれない敦と大輔であった。

*
駐車場へ案内され、夏彦ともすぐに合流すると磨かれた丸い石段を登り、檜造りの立派な門構えの玄関をおずおずとくぐる。
と、そこには先程屋根のみが見えていた邸宅の姿が目の前に開けた。
玄関脇には選定されたばかりのイヌマキ、中は低木があしらわれた小さな庭園。今は背の低いモミジが青葉を夏日に光らせてそよいでいる。
そして先程外からも見えた大きな黒松が天を仰ぐようにしてそそり立っていた。
針状の枝葉は大小切り揃えられて雄々しく清潔な印象を庭先に与えた。
奥には池もあるようで、さらさらと静かな広い敷地内に水の流れる音だけが聞こえる。

「(…僕の家よりずっと立派だ…)」
新潟の有力な旧家に生まれた敦の家も、それなりに自慢出来る邸宅に住んでいるが、こちらは桁も格も一瞥して違うのがすぐに見て取れた。
やはり、大地主と言えど商人であった実家と、由緒ある代議士の家では手入れも庭木の配置までもが隙が無い。雲泥の差なのである。

「きれいに剪定されてますね」
「まあな、晶君捕獲するつもりだったからさ。来るのに合わせてお義母さんがどうしてもって時期早めてもらったのさ」
本当は台風後に後片付けも兼ねて来てもらおうと思ってたんだけどさ、と聡文は珍しく真面目ににこやかに敦に答えた。
で、そんな歓待を受ける当人である晶と言えば、やはり顔色が優れない。
端から見ても丸わかりなほどなのだから、重症である。
重苦しく溜息を少し漏らすと落ち着き無く髪を掻き上げ、うなだれた様子で門をくぐってから後、周囲を見渡すと懐かしむでもなく重苦しく頭を垂れ立ち尽くす。

「さあ」と聡文に急かされ、ようやく観念すると浮かぬ顔を上げて本宅の玄関をがらりと開いた。

「ただいま帰りました」
緊張する晶の精一杯凛とした声音に、「おかえりなさい」と、室内から消え入りそうなほどの優しい、穏やかな声が帰ってきた。

女性の声。
晶の背筋が強張るのを見て、後ろで待っていた三人も緊張を全身に漲らせる。

「はい…帰り、ました」
一人三和土へと上がっている晶の声色が、一気に小さくなる。
相手が誰なのかと、大輔がおそるおそる玄関をくぐると、そこには上がってすぐの板間に座る女性の姿が。

年の頃は、自分たちよりも上…と分かるくらいの妙齢。
といってもシワもなく、また背筋もしゃんとしている。三十前くらいだろうか。
薄化粧でも透けるような白い肌、物憂げな長いまつげで縁取られた切れ長の瞳、薄紅を差した口元。
上品な白に藍染めの和装が控えめな印象によく似合う、純和風な淑女が正座で晶をお出迎えしていたようである。
長い髪を後ろで玉状にくくり、翡翠色と緑青の飾り紐が耳下から覗く。清潔な色香を感じさせるたたずまい。

「(晶の…と言うより、杏奈さんのお姉さん…って感じだな)」
と、大輔だけでなく、すぐにその背後から覗き込む夏彦と敦もほぼ同様の初見を感じた。
それほどにこの和装美女は清楚で美しく、また居るだけで相手の警戒心を解く柔らかさを持ち、そうした印象を与える女性といえば、彼らにとって共通の存在であるなら杏奈が一番近しかったのである。

三人が見とれているのに気付いて、晶は「あー…」と困惑した様子で眉をひそめた。

「えーっと…ごめん、ここに僕が居たら上がり辛いよね。いいよ、上がっても」
説明が面倒なのか、そそくさと中へ促す晶に、和装美女は「ダメですよ晶さん」とめっ、と猫のように小さく拳を曲げて見せる。
「いえでも…外暑いですからまず中へと」
「その前にご挨拶くらいいたしませんと。お父様に怒られてしまいますわ」
「あ…う、うん…」
言われて恥ずかしそうに脇へ退く晶の傍らで、聡文も「戻りました」と彼女にきびきびと一礼し、「お帰りなさい」と答えると、今度は三人に相対して和装女性は深々と頭を下げた。
慌てて広い三和土へ上がると三人も背筋をただして返礼を返す。その動作があんまり堅苦しかったせいか、顔を起こすと女性はうふふ、と口元を隠しつつ、優しく目尻を下げて微笑んでいた。

「ようこそお越し下さいました。私は安住志津、と申します。あまり大したおもてなしも出来ませんが、どうぞこちらへ」
「は、はあ」「どうも」「よろしくお願いしま………ん?」
どこかで聞いたような女性の名前に、クイズ研三名全員がとある疑問を抱く。

「晶先輩のお姉さんですか?」
「え?」
と、緊張からか、心ここにあらずな晶は敦の質問に素っ頓狂な声を出した。
すぐに気付いたのか、晶は言いにくそうに「ええっと…」と頬を掻きつつ視線を明後日の方に向けてしまい、代わりに敦の問いへは彼女自身が「お上手ですのね」とまた楚々と着物の裾から微笑みを返した。

「母です」

一人平然としている聡文を除いて、安住家玄関に見えざる衝撃が走った。

「・・・・・へ?」
「晶先輩の…おか、あさん」
「お、お姉さん、とかでなく」

「はい、そうですよ。…いやですわ皆さん、おからかいにならないでくださいまし」
もう五十過ぎてますのに、とコロコロと鈴を転がすような清楚な声で笑う和装女性=安住母の姿に、全員女性についての価値観が一瞬吹き飛びそうになっていた。

その肌艶で。
そのシワのなさで。
その美貌で。
その和装でも分かるプロポーションで。

人生五十年既に済んでるとか。
ありえない。マジであり得ない。
若々しすぎるだろ。常識的に考えなくても…。

……・・・・・。

「…えええええええええええ!?」
三人全員の叫びが唱和してビッグバンとなった所で、「うるさいっ!!」とキレ気味に晶の怒声が響いた。

「えっちょっええっ?ちょっおまっおまかあちゃん」
「安藤先輩何てんぱってるんですか。ウチの母がどうかしました?…あーもう、庵以外いつも初対面はみんなこんな反応なんだよね。しばらく家に人呼んだ覚えないから忘れてたよ」
「えっあのじゃあこの方は」
「そうだよ。僕の母さん。身体あんまり強くないし、マスコミ対策で外にあんまり出ないからみんな知らないとは思うけど…今日は体調大丈夫なの?目眩は?家の中なら僕案内するから、横になってればいいよ」
「いいのよ晶さん。私は平気。お客様が来られる時くらいしっかりしないと…」
言いつつ立ち上がろうとしてフラッと足下から崩れかけた母を、慌てて晶は靴を脱ぎ捨てかまちへ上がりしっかり抱き抱える。
「ほらもう!夏はいつもこうなんだから、こんなしっかり着付けたりしないで、奥で横に…」
「ダメよ晶さん、今日はお父様も帰って来られてるんですよ!留守居を任されている以上、いつも以上にきちんとしておかないと」
若奥様がぷんぷん怒るような愛らしい仕草で腕の中でイヤイヤする母親をなだめようとしていた晶の動作が、「お父様」の単語で不自然に硬直する。

「そうよ晶君」
廊下の奥から聞こえた飄々としたバリトン声の主に、晶だけでなくクイズ研の一同も「あっ」と全身を強張らせる。

肩まで伸びた白髪交じりの長髪にトレードマークの立派な口ひげ、シワを幾重にも畳んだ三白眼気味のタレ目。
茶の着流しにこじんまりとした猫背を仕舞った、小柄な壮年の男性がひょっこり姿を現す。
ひょこひょこと何のてらいも威厳もなく、ごく自然な立ち居振る舞いで男性は「よっ」と手を挙げて客人に軽い挨拶を交わす。
一見すると何のオーラも無い、ただのノリが軽いおじさんである。

しかし、この男こそが日本の道路建設にその人ありと言われた安住一族の現当主、現国土交通大臣・安住虎太郎その人であった。

【7月30日・お父さんですよ・晶君更に涙目・続く】












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