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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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君はこの空のようで。
*

「もう出るの?もう一日ゆっくりしていけばいいのに…」
今晩もう一泊してもいいのよ、と言う母の寂しげな横顔に一瞬心がぐらりとしかけるが、「そうゆっくりもしてられないので」と晶はやんわり固辞する。

他のメンバーも庵の様子を見て事態を把握したようで、何も言わず旅支度を調えると荷物を車に積み込む。
庵はバツの悪さが分かっているようで、晶の母に挨拶をした後、なるべく顔を合わせないようにさっさと助手席に乗り込んでしまった。
相手をするのが嫌なのではない。
小さい頃から親しくしている晶の母が辛そうな顔をしているのを見ると、否が応でも自分のせいだと思ってしまうからだ。
半分は否定しないが、それをダシにしているのは晶もおあいこなので、気にしなくてもいいのにと思いつつもそうは言えなかった。
庵自身の持っている超記憶力が時折彼をさいなんでいるのを知ってから、晶は庵の心の調子が悪くなると特に気をつけて接するようになった。
母の事は心配だったが、晶もまた、このまま母の好意に甘えて母の側に居ては自分自身が意識せぬまに「よいこ」となり、親の言うなりになってしまうような気がして、怖いのである。

優しさに縛られるのは、何よりも怖かった。
そこは、居心地が良すぎるから。

助手席の庵を見る。
思い出す度に、何でもかんでも克明に思い出されてしまうというのは、どんな気分なんだろう。
良い事ばかり事細かに思い出せるようになれたらいいのに、そう出来ないんだろうな。
漠然と、そんな事を思う。

想像の範疇を越えない庵の複雑な心境を夢想しながら現状をちらりと見やると、先程から聡文がイヤミの一つでも垂れているのか、助手席の窓越しに庵へ何事か言っているようで、鬱陶しそうに掌で兄の横顔を外へ押しやるのが見えた。

「ブラコンあっちいけ」
「うるさいんだよサル、このサルサル、お前のせいで俺はせっかくの貴重な休日を晶無しで過ごすんだぞ。イヤミくらい言わせろ」
「知らんがな(´・ω・`)」

…どうでも良さそうである。

「じゃあ晶さん、仕方ないわね…ちょっと待っててくださいね」
そう言って十分ほど晶の母は屋敷の中へ引っ込むと、大きなビニール袋を抱えて戻ってきた。
手渡されると、中はずっしりと重みがあるアルミの塊が幾つも詰め込んであった。
「お昼に出そうと思って冷やしておいたおにぎり。捨てられるようにアルミで包んでおきましたから、車の中で食べてくださいね」
「お母さん、いつの間に」
「お掃除していただいてる間に。本当は、一緒に食べたかったんだけど…」
本当に、寂しい思いしてるんだろうなと思うと同時に、愛情が申し訳ないくらいで晶は目頭が熱くなる。

「…ごめんなさい」
「ううん、いいのよ。それに、私ちょっと安心したのよ晶さん」
「え?」
「家に居た頃からしっかりした子だなって思ってたけど、一人で暮らすようになってから見違えたみたい。少し見ない間に、どんどん大人になってたみたいで。それはちょっと寂しいけど、お母さんホッとしたわ」
「そんな、僕はまだまだです」
「そんな事ないわ、もっと自信持って。あなたはもっと自分を信じてあげていいと思うのよ。…庵君のお母さんには私から言っておきますから。さ、待ってる方がいるんでしょ?お待たせしてはいけませんよ」
「おかあさん…」
「はあい。でも晶さん、来年のお正月は絶対、帰ってきてくださいね。そうしたら、私少しだけ甘えさせてくださいね。ね、約束」
「…はい」
「それと、できたらあなたのお待たせしてる人も一緒に、ね」
「へ?」
いや違います僕じゃなくって、と言おうと口をモゴモゴさせる晶に、分かってますよ、と晶母は童女のように意地悪く微笑み返して、ちろっと舌を覗かせた。

*

晴れ渡った真昼の夏空の下、坂を下っていく黒のミニバンを見送りながら、いつまでも坂下を見下ろす義母に「行きましたね」と聡文は声をかける。

「せっかく三日も休みもらったのに、一日半で晶はまた出て行くし。予定狂いまくりだな」
背伸びしながら、つとめてそっけなく呟く聡文に晶母はふふ、と微笑ましく目を細める。
「貴方も大変なのにね」
「お母さんこそ、頑張りすぎですよ。朝昼とお食事の支度だなんて、体調大丈夫ですか?」
「ええ、有り難う。だってアキ君が帰ってきただけで、私嬉しくて。横になってられなかったわ」
まるで初々しい女学生のように頬を染める義母を、聡文は可愛い人だと素直に思う。周囲は色々とフィルタ越しでしか見てないようだが、こんなに純粋に人を愛する人も中々いないだろうなと、他者を愛するという感覚自体が希薄な自分でさえ感じるのだ。
「やはり、あいつは元気の素なんですね」
そう言うと、義母はそうですよ、と涼やかに即答した。
「そして、貴方にとっても、ね」
「そりゃ勿論」
着替えたてのワイシャツの白に、真夏の陽光が照りつける。
それが心地よくて、聡文は伸びをしたままうん、と青空を仰ぐ。

空はまるで。
空はまるで、あいつのようだ。
そんな事を思った。

「俺は晶のためにだけ生きてるようなもんですから」
「そんな寂しい事、言わないでください。お父さん、悲しみますよ」
「いや、きっと怒りますよ。勘当はされないだろうけど、怒髪天でしょうね。だから、俺はいつでも慎ましくしてるんですよ」

晶のためにね、と聡文はさりげなく、誰に言う風でもなく呟いて空を見上げた。
曇り無い眩しい晴天の空が、今日だけは憎らしくなく素直に美しいと、聡文は思えた。

【→小休止終了 次回チェックポイント 香川】












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