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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

彼岸と此岸の間に。
「対シャドウ戦闘員チーム12名、まず隊長殿とサポートの榎本君はその存在すら知らず、他の9名は内容を見なかった、もしくは途中で止めて廃棄していた。それ故でしょうか、僕の考えに理解を示していただけなかったのですよ。
折角、狗神君が決死の覚悟で持ち出した貴重な資料だったというのに」
「普通の人間なら、そうするさ」

そう、普通なら。
腎臓を患っていた妹の手術費用欲しさに幾月の誘惑に負け、仲間を裏切り、汚れた大金を手に入れたのに、妹は手術の失敗で急変し亡くなった。
相談相手だった隊長はチームを解散し、あの恐ろしい子供と共にどこかへ行ってしまった。
ならば、懺悔の相手はもう俺しかいなかった。

「だが、狗神君は重大な失態を犯した。それは、僕を信頼しなかったことだ」

狗神は、己の持ち出した資料を前に、ひどく後悔していた。
こんなもの、持ち出すべきじゃなかった。
だが、それ以上に隊長が心配でならない。
せめて、島に居る間にこれを見せておくべきだった、と。

狗神は幾月の元から資料の根幹となるシステムの設計図とプログラム、そして極秘VTRに収録されていた「実験」の画像データ、並びに実験記録を再度盗みだし、11分割し、その一部と、VTR画像を収録したCDを俺の元に持ってきた。
データは膨大な研究資料の一部でしかないが、最も重要な部分を俺に預けたいと、狗神は俺に懇願し、頭を下げた。

分割したデータを仲間達に託した三日後、狗神は故郷の景勝地で変死体となって見つかった。
あいつの持ち物は一切合切無くなっていたが、あいつから託されたデータは、今なお俺の手元に有る。
後に死んだ仲間達の追跡調査で分かった事だが、住所を転々としていた成瀬と元々エンジニアではなかった榎本には資料そのものが渡っていなかったようだ。
そのため榎本は狙われる事も無かったが、成瀬は全ての真相を知らぬまま、研究の根幹となる「素体」をこの8年間守り続けた。
何度も、成瀬に接触し真相を告げたかったが、いつもタイミングが合わず見送ってきた。
召喚機を送る際に添付しようかとも思ったが、下手に実験のデータを複製することにためらいを覚え、結局出来なかった。
ガキに召喚機を使わせて、その場に召喚された「モノ」を見れば、あいつも目が覚める。
そう願って、送りつけて今日まで音沙汰は無かった。

思えば、俺もあの忌まわしい実験から逃げたがっていた。

「…データは全て集まった訳では無かったのだろう?それなら、諦めたらどうだ」
「構いませんよ。他の方の持っていたデータは、これまでの年月で穴埋め出来る程度の物でしたから。…問題は、貴方が持つ最後のピースだけ」
「………」
「ペルソナ能力制御用に開発された、洗脳用プログラム「エウリュディケ」…そのプログラムとパスコードをお譲り下さい。
それさえ手に入れば、他のコントロールシステムにかけられたロックも同一キーで解除出来る。
今の技術なら、さらにシステムの精度を高める事も可能だ。
…どうです?共に研究し手を組むなら、お仲間二人は解放して差し上げますよ。
もっとも、成瀬さんはせいぜい延命が限界かもしれませんが」
「あの子供は…どうする」
「勿論、研究用の素体として利用させて頂きます。
…構わないでしょう?
むしろ、貴方はその方が良いとすら思ってはいませんでしたか?
無二の親友を過酷な生活に導き、なおかつ未だに暴走の危険性を残した危険なペルソナの素養を持った子供を野放しにしておくより、監視の行き届いた牢獄へ繋げておくべきだとは思いませんか?」
「………」
「即答しなくてもよろしいですよ。まだまだ、目的地まで時間はたっぷりある。…こうして、貴方と二人きりでゆっくり話が出来る時を、ずっと待っていました」
「…幾月」
「何でしょう」
「お前は、あの画像データを見て、何も思わなかったのか?」
「では逆にお聞きしましょう。堂島さんは、何をお考えに?」

「…あの日。爆発事故の前日。俺達はあの子供の宿していたペルソナを見ている」

『オルフェウス。アルカナは0番・愚者です。
私は歌う事、心の海を渡って伝え聞いた話を語る事以外、能の無いペルソナですが…』

「日向の息子は、孤独だった。
親から愛されず、ただ寂しさを紛らわせるためだけに、ペルソナを喚び、己を慰め合った…」

『…私は彼の友達になるために喚ばれて来たのです。
彼が望んでいたのは、人を傷つけることではなく、人と繋がりあうこと。
そのため、私には戦うための能力は全くこの身に宿していませんでした。
火の玉一つ使えないのです』

「誰かと共に有りたい、それだけを願っていたはずの仮面の力を悪用し、やっと成瀬の手で人間に戻ったあの子供を再び悪魔にする気なのか」
「…人間に戻ったかどうかは、分かりませんよ?」
「だからこそ、俺は確かめに行くところだった。
お前が邪魔さえしなければ、今頃とっくに着いていたはずだ」
「さあて、何のことやら」

あくまでとぼける気らしい。
澄ました余裕の表情が、潰してやりたいぐらい憎らしかった。

「ノー、と答えればどうする」
「貴方の予想される、最悪のシナリオ通りに進むだけです。
残されるのは、宣告者のみ。…たとえ今私を消しても、同様に事は運びます」
「………」

「(おじちゃん  は ぼく の みか た    ずっと ずっ と    みか た )」

あの日の少年の声が、聞こえる。

寂しかった。
寂しくて孤独で、背負いきれない血塗られた棺桶を背負って、その棺の重みに潰されても死ねなかった。
孤独。ひとり。誰も側にいてくれない。

それが罰だというなら
セカイナド イラナイ。

ひとりぼっちのせかいなんて ほしくなかった。

少年が最後に追い縋ったのは、理想の友達をくれた、仮面の力。
もはや制御する者も支配する者もなく、制する力を有していた死神は、侵入者の相手をしていた。

少年は呼んだ。

おとうさんがいってたんだ。
オルフェウスは、ししゃのせかいへいけるんだって。
だから、おともだち、たくさんつれてかえったよ。

少年の頭上で、吟遊詩人「であったもの」が像を結ぶ。
金色に輝いていた髪は真っ白に色が抜け落ち、
白磁のようだった滑らかな肌は黒いタールで塗りつぶされ、もはや眼光すら見えなかった。
わずかに赤いマフラーの下から覗く口元は、緩みきって赤黒い液体を垂れ流していた。

機械仕掛けの全身にまとわりつく、削ぎ落としたばかりの肉塊のような生々しいピンク色の人面瘡が、無数にこびりつき、脈打っている。
それは騎士の顔であり、美女の顔であり、獣の顔でもあったのだろう。
だが、全て半分溶解しており、ただただ苦悶の表情を浮かべている事しか読み取れなかった。
だらりと垂れ下がったメタリックな手足は赤紫色にむくんで腫れ上がり、膨張した金属の下から我先にと飛び出そうと、像を為さない顔達がオルフェウスの全身を歪ませ、波立たせ、「ああ」「うっううう」とうめき声を上げて皮膚の下を這いずり回る。
そのたび、オルフェウスは血に似た液体を吐き出し、床は酸性の消化液で溶けて腐敗臭を漂わせた。
「げえっ…げっ……うる うう うげ…お をおを おお 」
「さあオルフェウス おともだちをよんで」
「おご おお おおおおおう 」
オルフェウスの胸元、格子窓の部分に、一際大きな肉塊の顔が飛び出し、宙でオルフェウスの全身がびく、とのたうつ。
顔は老人の相を為すと、やはり他の肉塊同様、悲しげな声で「うーうー」とうめき声を洩らした。

「さあ あいつをやっつけて たかしくん 」

死者のペルソナを塗り固めたレギオン。
塞がる事のない、心の傷跡とおぞましい実験の負の遺産。

少年は幼い凶暴性を剥き出しにして、俺に襲いかかってきた。












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