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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

週末デートin香川。
*

翌日。
今日から八月である。

飲食店の朝は早い。
朝5時の薄暗い中、麺工場では店長が念入りな清掃の後、数名の社員と共にフル稼働で麺生地を叩いて伸ばして手打ちをし、その間おかみさんは隣室の厨房で大量の麺つゆと天ぷら、御飯、総菜の仕込みに取りかかる。
ぐらぐらと煮立つ鍋には茶褐色のだしとカツオぶしが揺れ、室内は換気扇を回してもすぐに熱気で白く煙る。
ここ安西製麺所は、自家の店舗だけでなく県内十カ所のうどん屋やお土産屋に讃岐うどんセットを販売しているため、毎日できたてのうどんセットを社内パッキングしては午前中までに各販売所に配達して回るのである。
普段は店長の安西父が自らワゴンで出向いて回っているのだが、今日はこれをQ研の面々が請け負うことになった。
ナビ役は将来店を継ぐ(かもしれない)息子のノブが(強制的に)任命され、朝食の後、うどんセットの積み込みを手際よく済ませて出かける準備を済ませると、「安西製麺所」の藍色の勘亭流文字が塗装された白いワゴン脇で、てへへ、と申し訳なさそうに立つ二人の男女。

「ごめんなー、みんな」
「いや」「いいから」「気兼ねなく行ってこい」「そうですよ、先輩!」
既にワゴンへ乗り込んで出撃準備万端の夏彦以下大学生の旅仲間四人に微妙な薄笑いを浮かべられ、庵は何と解釈したものやらと困惑気味に「ありがと」と答える。何故か昨日今日と、自分へ返事をする際やけに気合いの入っている敦が不思議でならない庵である。

「いやいや、それは私の方だよ…お客様なのに、お手伝いしてもらっちゃって」

「いえ!いいんです!」
「当然のことですから!」
「今日は楽しんで来てください!」
「そうですよ、のどかさん!」

一層力強い四人の送り出しに、助手席に乗り込んでいたノブは一人「あほくせ」と言い捨てる。

「うっさいノブ!あんたちゃんと案内しなさいよ?寄り道したり、小遣いせびったりしないのよっ!」
昔っからあんたはお手伝い頼むとお駄賃ばっかり言うんだからー、といかにも姉らしくくどくどと言い聞かせようとするのどかの口上に、更なる注意書きが入る前にノブはしっかりと顔をしかめて「ガキじゃねえんだよっ!」と唇を尖らせる。
「するかよバーカ!姉ちゃんこそなんだよその格好!?普段そんなぶりぶりの肩出しワンピなんか着ねえくせに、きめえんだよっつうの!」
とっておきのパールピンクワンピースをけなされ、途端にのどかの顔が真っ赤に紅潮する。
「うるっさい!うざい事言わないでよっ!きれいな格好してちゃ悪いっての!?あんたこそ何その適当な若葉マークのTシャツはっ!」
「いいだろ別に!?どうせウチの藍染めエプロン付けて荷下ろしすんだから分からないっつーの!姉ちゃんこそ普段しねえくせに化粧濃すぎなんだよ!」
「日焼け止めですっ!日焼け止めですー!」
「まあまあそのくらいにしなさいなあんたたちはもうー」
見かねたおかみさんの仲裁で姉弟は互いに頬を膨らませてぷいっとそっぽを向き合う。
あれまあ、とおかみさんは肩をすくめて見せると、ワゴンの助手席側から運転席の夏彦に「それじゃあ、お願いしますね」と笑顔を見せる。

「ウチのお父さん、腰が悪いから車動かしてもらうと助かるのよー。将来的にはノブに任せたいんだけど、この子免許取り立てで危なっかしくって」
「うっせえよ母ちゃん、助手席乗せてやんねえぞ」
「はいはい、母ちゃんが悪かったよ。皆さんも今日はまた暑いでしょうから、きつくなったら道々休憩してってくださいね」
「ありがとうございます!」「ちゃんと届けてきますからねー」
すまないねえ、よろしくねぇ、と、緩やかに駐車場から出て行くワゴンに何度も深々と礼すると、安西母のおかみさんはのどかと共に駐車場へ残された庵へと向き直る。

「それじゃあ、庵君もどうぞよろしくね」
「は、はい」
やたらと丁寧なおかみさんの対応に戸惑いつつ、庵も何度もペコペコと頭を下げ合う。

「あ、あとその…出来たら、後でこっそり色紙か何かにサインしてもらえないかね?ウチの息子、今年受験だし、出来たら夜にでも勉強見てやってくれたら…」
「おかあさん!?そういうのはダメだって…」
「いや、別にいいよ」と、庵は苛立ってばかりのののどかを優しく制する。
「でも俺、人に教えるのすっごい下手ですよ」
「そんな謙遜しないでいいのに!」
「いえ本当です…それと、俺もう普通のおつむしかないですし、御利益もないですから…」
「またまたそんな事言っちゃってぇ!」
べしぃ、と興奮気味なおかみさんの平手打ちを肩に浴び、悶絶する庵にのどかもおかみさんも我に帰って「大丈夫!?」と、あわわわ口を震わせる。
「ちょっとお母さんー!」
「あらやだよ、またやっちまった!大丈夫かい?腫れてない?」
「ら、らいじょぶでっす…」
庵は平気なふりをしながらも、口元が若干むぐむぐと痛みを堪えて震えてしまう。
「ごめんねぇごめんねぇ、おばちゃんの店には若い有名人なんて滅多に来ないから興奮しちまってさ」
「お、俺もう有名人じゃないですよ。そんな大層なもんじゃないですってば」
「いーやそんな事はないさ!昨日は疲れてただろうけど、良ければ今日帰ってからでもお父さんと話してあげてちょうだいな。あの人、ちょっとクイズ番組にはうるさくって何かもの申したい風でさ」
「ああ、そういうのなら大歓迎です。後輩の家にお邪魔したときも、そこのお父さんが同じ趣味の方で話が盛り上がりましたから」
「まあー!そりゃあいいこと!それなら…」
矢継ぎ早に言葉が切れ目無く続くおかみさんに、ジト目な娘の視線がぐさりと突き刺さる。

「…っと、そろそろ昼の開店準備しないとね。じゃあ、行ってらっしゃいな。バス停は分かるね」
「分かりますー。高校時代ずっと毎朝バスで通ってたんだもの。そこまでとぼけてないよっ!」
「それなら安心だ。ゆっくり遊んでらっしゃいな~」
不満ありありな娘の表情に肩をすくめると、すくめたままで背中を小さくしておかみさんはそそくさと店舗へと駆け去っていった。

駐車場にぽつねんと残されると、庵の傍らでのどかは俯いたまま「ごめんね」と呟く。
「お母さん、いっつもああなんだよ。テレビやラジオの取材が来るといつも喋りっぱなしで止まらなくなるの。名物おかみなんて言われてるけど、恥ずかしくって」
「そうかな?いいお母さんだよ」
「ホント?」
「うん」
そっと顔を上げると、にっこりと笑う庵の視線とぶつかった。
思わず目線を逸らし、また横目でそっと窺う。やはり相手も照れくさそうで、視線がぶつかるとぷい、と正面を向いて白々しく鼻の頭を掻いた。

「えーっと、バス停ってどこ」
「そこ出て右の県道沿い。一緒にいこ」
「うん、あの」
「?」
「今日一日、よろしく」
「う、うん…よろしくね」

お互いに互いの顔を真っ直ぐ見られない。
互いに、意識しすぎてるのが分かる。でも、リラックスするにはまだ早くて。

「ふたりきりって春以来で…実は、初めてだよね」
「うん」
「あの…じゃ、いこっか」
「うんっ」

そろそろと、歩き出す。きっと誰でも始まりはこうなんだろうなと、心のどこかで思いながら。

【8月1日・今日は一日フリータイム・二人で観光地巡りです・続く】












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