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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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もどかしいてのひら。
*

栗林公園に到着すると、正門をくぐって中へと入る。
もっと普通の女の子が好きそうなスポットも他にあったのかも知れないが、庵が騒がしい場所や人混みを好まない事を知っているせいか、のどかはここでのデートを自ら勧めてくれたのだった。
「私、史学科でしょ?こういうお庭とか、歴史感じさせる所って好きなんだよ」と、いらないフォローがいじらしくて嬉しくて。
入園券の売り場では、自分よりも半歩足を速めて「チケットまとめて買っておくね」と駆け出していく。
細い首筋に、大きく肩の開いたワンピースから覗く背中の白肌が眩しい。
そんなのどかの気遣いや何気ない言動が、庵は好きだった。

*

公園内は夏休みとはいえ平日昼間の炎天下で、人気も薄く閑散としたものだ。
だけど、歩き回るにはこのくらいがいい。一目を気にしないでいいし、マイペースに見て回れる。
何より、二人きりであるのが重要なのだし。

「遠足とか、ツアーとかとかち合わなくて良かったかも」
「だねー。子供がいっぱいいたら騒がしくて落ち着かなかったかな」
「俺等みたいに歩き回るのならちょっとね。でも写生大会とかなら、しっかり画伯してるのなんか見てて和むからいいけど」
「庵君って子供好き?」
「うん、俺好きだよー。暇なときとか、公園でぼーっとしながら、ちびっこの言動眺めてるとほっこりするんだよね。色々小さいなりに考えてるのが分かるから」
「考えてる感じ?」
「うんそう、何て言うか…こうしたらもっとボール高く蹴れるかなとか、こうしたら面白くなるかとか、大人に聞く前に一生懸命試行錯誤してる感じ。俺、昔ああだったから」
「あ、それなら分かる。庵君って何でも追求しないと気が済まない感じかなーって」
「正解。10ポイント」
「やった♪」

あはは、と彼女が笑って、一緒に笑う。
松林を横目に、芝生の脇に伸びる砂利道を並んで歩く。
彼女をそれとなく木陰側へ誘導して、サンダルの歩調に合わせてゆったりと歩く道。
話すのは、本当にどうでもいい話ばかり。
でも、大切な一言一言を積み重ねる時間。

「庵君、後楽園好きだって言ってたよね。栗林公園と比べてどう?」
「うーんとね、広さが丁度いいんだよ後楽園。一時間で大体歩けるから。栗林公園て樹木も庭園の広さもボリュームたっぷりだから、時間的になかなかこうしてゆっくりと見て回れなくて。だから、誘ってもらって嬉しかったよ」
「ホント!良かった、庵君私に合わせて無理してないかなって、ちょっと心配だったんだ…それにその、後楽園って上品じゃない?栗林公園の方はその…大味っていうかなんていうか」
「そうかな?どちらかというとワイルドっぽくない?…ほらそこ、芙蓉沼のハスとか。あんなに後楽園のハスって大きくないし」
小さな石橋のたもとから池を指差すと、人一人くるめそうな大きさのハスの葉が池の端からにょきっと何本も伸びている。
「あの葉とか、すーごい大きいよな!ほらこことか、蓮のタネが間近で見えるよ」
指差す先には、既に花びらの落ちた蓮のガクが。
「うわっ、みっしりタネがついてる!」
「触れそうなくらいだもんね。花自体も一回り大きいかな?道々で観た松林も豪快な枝振りしてるし、きっとお殿様の趣味なんだよこれ。野性味溢れる感じとか」
「なるほど、そういう見方もあるね!あーでも、後楽園の芝生は知ってるんだけど、私、実はハス見たこと無いんだ」
「そうなの?良かったら来年行こうよ。出来たら七月の観蓮節にでも」
「いいの?!行きたい!私も庵君と一緒に…」
楽しげにはしゃいでいた互いの視線がふいにぶつかって、互いに目を逸らす。

「ご、ごめん。大きい声出しちゃった」
「い、いえいいです。…えっと、しばらく歩いたらどこかで一息つこうか」
「う、うん」

*

「暑くない?のど乾かない?」
「うん、平気。 …ありがと」
「いえいえ」

芙蓉沼から南へ、順路に従って散策する道。会話も口数も少なくなって、二人して前だけ見て歩く。
一旦意識してしまうと、なかなか自然体の感覚が取り戻せず、かといって貴重な時間をこのまま無為に過ごすのも意味が無いと分かっているのに。
ままならない気持ち。足下の砂利の感触と肌を覆う蒸し暑さばかりに意識を向けてしまう。
庵はもう何度も見て暗記出来ているはずの園内案内図に目を落とす。

「この先に掬月亭ってところあるけど、お茶出来るみたい。そこで休憩どうかな?」
「う、うん。いいよ」
「わかった」
「あの」
「?」
「手、繋いでもいい?」
唐突な意思表示に一瞬たじろぐのどかだったが、庵の横顔に緊張を察して、そっと手を伸ばす。
もしかして、自分と同じように、手にそっと触れるチャンスを探していたのかな。
そんな大それた事を思いながら。

「…うん、いいよ」
「ありがと」
小学生じゃないんだし、気にしなくていいのにー、と口で茶化しても、頬が緩む。
熱くなる。
東京だったら気恥ずかしくってさー、と明るく呟く彼の横顔に、やっとリラックスした笑顔が生まれて、のどかも自然と笑顔が弾ける。

幸福な体温。指先の形。
触れている一部で、相手の思いが伝わる奇跡。
理解出来なくても、心が喜んでいる。それだけで嬉しくなる。
手を繋いで歩く。
木陰から差し込む陰影の濃い日差しが作る道々の光点を踏みしめながら、一緒に笑いあって歩く。

梅林や生い茂る松の木陰道をしばらく歩くと、目の前に古風な屋敷と開放的な玉砂利の枯山水、そして煌めく水面が開けた。
掬月亭、という建物は涵翠池のたもとにある小さな屋敷風の建造物であった。

「この建物、数寄屋風なんだって」
「へえ…これなんて読むんだろ。しょうげつてい?」
「きくげつてい、だって」
「さっすが、庵君」
「いや、園内地図の裏に書いてあった」
「ご、ごめん」

またまずい事しちゃった、と口に言わずも舌をちょっと出してむう、と眉をひそめるのどかの表情に、庵は思わず「ふふっ」と笑みをこぼす。

「かわいい」
「えっ」

今度は庵がまずい事言った、と顔を赤らめる番であった。
のどかに見上げられ、ぐうの音も出ず明後日の方に視線を向けたまま「ごほっ」とわざとらしく咳き込む。

「あのさ」
「うん」
「……ののちゃん、将来何か夢ある?何がしたい?」
「えっ…私?」
頬をまだうっすらと染めたまま、池のほとりに立ち庵はのどかに向き直る。
その表情は驚くほどに神妙で、また視線は射抜かれそうなほどに真っ直ぐのどかに向けられていた。
日差しが眩しく水面を照らすが、水面から吹き抜ける風は冷たく、火照った二人の頬を、身体を優しくすり抜けていく。

「私は…今は学芸員かな。出来たら日本史…刀剣や古美術を扱ってる美術館に勤められるようになったらな、って思ってる。でも…他にも、一応あるけど」
「なに?」

「………ないしょ。庵君は?」
「俺は…そのことも含めて、ののちゃんに言いたい事があってここまで来たんだ。中で、一息ついたら、聞いてもらってもいいかな」
「………うん、いいよ」
「ありがと」
「さっきからありがとばっかり。私、普段いっつも庵君に迷惑かけてばっかりなんだから、もっと言ってくれたらいいよ!」
「えっ、そんな俺迷惑なんかないよ?」
「そうかな?だってレポートの資料探し手伝って貰ったり、それでなくても私、割と無意識に迷惑かけてないかなって」
「そんなことないよ。俺が断言する。俺…いつも君に支えてもらってるよ」
「えっ?」
「さ、入ろう。あっついよここ」
言い終わらぬ間にくるりと背を向けて屋敷へと入っていく庵を、のどかは慌てて背中を追った。

【8月1日・慌てない慌てない・一休み一休み・続く】












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