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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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ピンチと隣り合わせの苦痛。
*

「入院させなくて大丈夫なんですか…?」
マネージャーを見据えたまま、心配そうに声を落とすのどかにマネージャーも「入院させないとまずいです」と、呟き返す。

「じゃあなんでっ…!」
「本人が頑として聞かないのですよ…。今倒れたら後がないのがうすうす分かっているようで、入院させられたらステージは止められるぐらい重症な自覚があるんだと思います。
…さっきは月曜再診と言いましたが、あれは入院しての前提です。
ホテルからさっさと病院へ入るようにとせっつかれてます。
でも、そうするのをためらうほどに…ちょっと、追いつめられてます」
「…どういうことなんでしょうか?」
お恥ずかしい話ですが、とマネージャーはうなだれて肩を落とす。

「…今回のゲームプロモーションイベントが不採算で終わった場合…赤字の半分をウチがこうむる契約になってたんです」

「…それ、どういうことかな」
ぽかんとするのどかの間に入って、今度は低い声で庵が問いただす。

「…そうでもしないと、SIGAさんとの契約取れなかったんですよ!
アイアイはそもそも歌唱力が生命線です。

逆に言えば、それしか売りがない。

見かけは小学生みたいだし、あれではグラドルやお色気系で展開は難しい。
だったら年下っぽい容姿を武器にして売り込もうにも、言動を制御出来ない子ですし…。媚びる以前に、斜め上な返答しか出来なくて。
それでしたら、清純系のキャンペーンガールや歌のタイアップとか、そういうメジャーな路線を探る他ないのですが、今年は業界でも稀に見るアイドルの当たり年と言われてます。
いわゆる妹系や萌え系、ロリ系は特にとかくライバルが多い上に大手事務所のプッシュが強くて全くつけいる余地がない。
なので、このキャンペーンガールはウチの切り札だったんですよ」
「…失礼な事聞きますけど、他のタレントは?」
「春先には四人いましたが、二人は辞めて二人は他の大手へ引き抜かれました。どの子も伸び悩んでいるみたいで、それ以降噂も聞きません」
「このイベントが不発に終わった場合の契約に基づいて被る負債額は」
「正直に申し上げます…ウチの事務所が潰れるくらい、です」
消え入りそうなか細い声でうちひしがれるマネージャーに、庵は哀れを越して苛立ちを感じているようである。
空気がビリビリと痛覚を刺激しているような緊張感が漂う。
のどかが身をすくませて成り行きを見守る中、庵は深く溜息をついた。

「お願いしたい事はただ一つ。
今回の四国・香川大会のみ、アイアイの代役をお願いしたいのです。
ギャラはご要望に適った金額は到底無理でしょうけれど、善処させていただきます。
待遇も最上級、ホテルもここの最上級スイートをご用意いたします。
…どうか、どうか」

「…それは、即答しなければならない事案なのでしょうか」
「先方は、代替イベントの準備も念頭に入れて今日の夕方5時までに返答をくれと…アイアイがもうステージに立てるような状態でないのはお察しの通りです。他にアイアイの代わりが務まるようなアイドルや芸能人にお心当たりがあるなら、その方をご紹介いただけるだけでも感涙ものです。四方手を尽くしましたが、田舎の興行に昨日今日で代役として来てくれるようなタレント、三流芸人ではレオナ側につっぱねられますし、かといってコネも金も無い弱小事務所の声かけではあと半日でなんて絶対に無理です!お願いします、お願いします…」
はちきれんばかりに仏様へ祈願するように、庵へ頭を垂れてお願いします、お願いしますと弱々しく呟くマネージャーを前に、庵は言葉を失う。
のどかがおそるおそる顔もとを覗き込むと、目を見開いたまま表情が硬直している。
打開策へ思案を巡らせている、と言うよりも…怒りや苛立ちが爆発するのを必死に押さえているようで、並びあった左肩がビリビリと緊張感ですくみあがる。

「嫌だと言ったら」
「のどかさんお一人にお願いします」
「…ちょっと待った!彼女は普通の大学生ですよ?…失礼だけどののちゃん、アカデミッククイズ以外でテレビ取材の経験とかある?」
小声で庵に話を振られて、のどかは激しく首を左右に振る。
「ぜ、全然ないよっ!だってテレビがウチのうどん取材に来る時は、いつもお母さんとお父さんが全部相手してたから私は…」
「…だろうな…」
「それでも、やっていただく他ありません。ここで途切れれば、SIGAが資金不足で九州大会の興行を取りやめて打ち切る可能性が大です。逆に、ここさえ切り抜ければ、今回で一番大きな収益が見込める最終二回分、北九州と鹿児島大会への道が開けます!どうか…」
「庵君…」
段々とマネージャーの顔色につられるように、のどかの顔色までもが血の気を失っていく。
のどかの性分では大学の先輩としても同サークルの友人としても、どう考えてもこの状況で断るなんて選択肢を選べない。
計算づくで他者の良心に訴えかけてくる戦法を使ってきた時点で、庵は目の前のひょろ長いスーツの男を殴ってやりたい衝動に駆られた。
すがるような視線。
ねっとりと濃度を増したような錯覚さえする、重たい空気が庵の全身にのしかかってきて、庵の胃腸は吐き気を伴いじくじくと痛んだ。

「(…庵君、お願い!毎日電話は鳴りっぱなしで、みんな庵君に番組に出て欲しいって依頼なのよ?これを逃す手はないわ!)」

頭の片隅で、かつて自分を連れ回した有名事務所のマネージャーの声が再生される。
三角眼鏡に長髪をひっつめたスーツ姿の、女っ気の無い参観日スタイルだったマネージャーに連れられて「アンサー庵」としてお茶の間をにぎわせていた頃は、裏で随分と嫌な思いをした。

一番最初、テレビに出た時の付き添いは父親だった。
無口な性分に似合わず、父は野球選手の夢を断たれてなお芸能界やマスコミに憧れがあったのだと、父が死んで後に母から聞かされ合点がいったのを覚えている。

あの人は、自分には絶対出来ない形でテレビに出てちやほやされてた庵が羨ましかったのよ、と。

父は不器用な人だった。
苦手だった勉強でも、得意だった野球の練習でも。
無口で、反復練習の成果しか信じようとしない人だった。

当時ウチの家は不景気のあおりを受けて貧乏で、ことあるごとにお金が無いと口癖のように言っていた父を励まそうと、俺は優勝した後手にした賞金でプラモを買う、と何の気無しに楽屋で言って以来、父は一緒に来なくなった。
大黒柱として毎日毎日好きでもない営業回りをしていた父にとって、それは最大の屈辱と受け止められていたそうだ。

『年端もいかない息子に、金もろくに稼げないと暗にバカにされた』と、俺の高校三年生時=アカデミッククイズ八百長事件時に、どこかの雑誌インタビューで俺の中傷混じりに答えていたらしく、万一俺が疑いをはらせなかった場合、大々的に大手週刊誌の一番記事にされるところだったそうだ。

恐ろしい。
そして愚かきわまりない。
だが、それが父の本当の姿だった。
それを死んで後、知った我が身はなお愚かしい。

父だけではない。
周囲は、皆どこかマスコミに「憧れ」や「羨望」を抱いていた。
知性、名声、権勢欲、そして日本中の尊敬の的、と大々的に宣伝され、いつしか母親は言われるままに自分に話もろくに通さず大手事務所と契約を交わし、俺は一人回答席に立ち続けた。
自分自身、そんな幻想は最初の1・2回でとうに崩れて、後はクイズで褒められる楽しさ、快感のみを糧に過ごしていたと言っても過言ではない。

そこに立ち続ければ、いつか父も母も周囲も自分の才能を理解してくれると信じて。
きっと、自分と同じような誰かが出てくると信じて。

いや、そうしなければ孤独に押し潰されていた。

学校では友達が瞬く間に減った。
皆表はテレビすごいねー、と言いながら影で冷ややかな悪口を囁き、俺と次第に距離を置いていった。
そうならなかったのは、いまだに付き合いのある晶と生まれた時からの幼馴染みな哲平だけだった。

代わりに、奇妙な笑顔を浮かべた大人ばかりが周囲に増えた。
みな、顔にはこう書いてあった。
「これはいい金づるが出来たぞ」と。

それから二年、俺はマスコミの前に立ち続け、限界ののちに騒動に紛れて芸能界から引退した。
手元に残ったのは有り余るほどの賞金と景品、煮ても焼いても食えないトロフィーと盾の山。

賞賛。
名声。

そして、数年に及ぶ「天才」という名の耐え難い「孤独」だった。

【8月1日・胃がじくじくする庵・不安なのどか・おろおろマネージャー・続く】












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