最初に私信を少しだけ↓
某様、先日は有り難うございました( ´ω`)
ただいまひっそりと準備中なのでしばしお待ちくださいませ…。
体育座りな二人。
某様、先日は有り難うございました( ´ω`)
ただいまひっそりと準備中なのでしばしお待ちくださいませ…。
体育座りな二人。
*
「庵」
ホテルの待合いロビーでは、庵は一人夏の日差しを避けるようにソファへ身体を埋めていた。
一瞬驚いたのか身震いすると、膝を抱えるように丸まったまま浮かない顔を晶に向けて「よ」と手を小さく振った。
「事情聞いた」と隣へ腰掛けると、庵は「そっか」と顔を全面ガラス張りのテラス向こう、眩しい市街地の風景へと視線を向ける。
絨毯の上でくっきりと日なたと日陰の境界線が分かれ、ガラス一枚隔てた向こう側では、クーラーのきかない室内で欠伸をしながら蒸し暑さでけだるく寝返りを打っている誰かがいるのかと思うと、不思議な気分になる。
空調は熱くも寒くもなく、空気も湿っぽいホテルの館内は、切り取られた別室のようだった。
「みんな来てるのか?」
「他の部屋に」
「そっか、ごめん」
「弱ったね」
「だよなあ」
短い受け答えののち、とりあえず情報を交換しあうと互いにソファにもたれたまま押し黙ってしまう。
「どうするの」と晶が訊ねると、庵は「どうしようかな」とさばさばとした答えを返してきた。
「多分、出ないといけないんだろうな、とは思う」
「出る気はあるんだ。意外だな」
「だって、俺がやらないとののちゃんがステージでお地蔵さんになるのが目に見えてるし」
「優しいなぁ」
「優しかないって。普通だろ。ののちゃんじゃなくてお前だったとしてでも、俺やっぱそう思うし」
「そうなの?ありがと」
でも、困ったねと晶は一息ついてソファに深く座り直す。
「出たくないんでしょ?庵」
「出なくていいならな。でも…」
他の選択肢が提出出来なくて、どうしようもない感じだ、と独り言のように呟いて俯く。
「オカンがさ、まだ俺がテレビ出ようとしてるんじゃないかって勘ぐってたよ。どっから何聞いたか知らないけどさ…またあれこれ言われんの嫌なんだろうけど、ちょっとカチンと来ちゃう訳よな」
「台風で一泊した時?」
「そう、あん時。ああ見えてオカン、外面いい割に身内にはあれこれ注文してくるから。嫌になるぜ」
「困ったね」
「ちょっちな。…かといって、見捨てたらまた一生恨まれそうな人間が増える訳でさ。でもってSIGAの株価とか現状ざっと調べたけどかなり経営状態良くなさそう。逼迫してるのは間違いない感じだ。最悪。マジどうしよって感じ」
「現状どうする気なの」
「出ると前提して、どこまで俺の融通が利くか訊ねてみるよ。あんまりな内容だったら、ののちゃん連れてタクシーで逃げる」
「僕らがいるじゃない」
「待っててくれんの?多分イエスと言うまで軟禁されるの必至だぜ?何時間待たせる事になるか」
笑えないけど、有り得るよなあそういうの、と庵が苦笑すると、晶は「それなんだけど」と、そっと口を開く。
「さっきマネージャーさんと話してて」
「うん」
「僕らも一緒で、というのはどうかな」
「晶たちも?!」
「そうそう」と晶は肘掛けに頬杖をついて言葉を続ける。
「少なくとも僕らが側に居れば、スタッフが君に妙な事をいきなりさせようとしても止められるし、目を光らせておけるよ」
「分かってないな」と庵は呆れ気味に言葉をきり返す。
「お前、高校時代の経験で分かってるかと思ってたのに。テレビの業界人は欲も業も深いのが多いぜ。表向きの建前だけで相手しようと思ったら何度も痛い目見るぞ。晶や先輩たちにまで迷惑かけるの、俺やだよ」
「どうせ逃げられそうにないじゃない。精神的に。計算づくで連れてきてるんだろうからマネージャーさんはしてやったりだろうけど、僕らもアイアイの状態見たら流石に胸が痛むし、かといって僕の親の力でどうにかなるもんでもなさそうな話だしねー」
お金とか生臭い話はちょっとねえ、とお互いに顔を見合わせて肩をすくめてみせる。
「おやじさんの知り合いって言ったら、小さな興行するようなんじゃなくって太平洋でマグロ釣ってそうなイメージが」
「あながち間違ってないね。父さんの友達、いちいち肩書きがごっつい人ばっかりで僕なんかは恐縮してばかりだよ」
「だよなー。それに、お前だっておやじさんに貸し作りたくないだろ?」
「一回くらいなら、融通してもいいけど?」
「やめとけよ。お前のおやじさん、絶対そういう甘えた言動狙ってるって。将来貸しを盾に何要求されたものか」
「したたかだもんなー」
庵もそのくらい割り切ってたら楽だったのにね、と晶が呟くと、庵は悟った風で苦笑をこぼす。
「仮に出て行った場合、倒産だなんだでまた色々と書き立てられる事考えたら、マイナーゲームの興行くらい手伝ってもいいのかもな」
「なるほど、そういう腹づもり」
「そうそう。こっちはいきなり頼まれてるんだから無下に断ったっていいはずなんだ。でも、それが次に顔を合わせた時に口実になるかもしれない。俺のせいじゃないのに『お前のせいで会社潰れた』とかさー、もう俺右斜め上な八つ当たりって勘弁なんだよなー…」
ずるずるとソファから滑り落ちそうなほどにだらりともたれかかって顔を埋める庵に、晶は「一人で悩まないの」と、そっと手を伸ばして後頭部をじょりじょりと撫でる。ワックスがいつもの倍量でガチガチな毛先の感触がくすぐったい。
遊んでいると「やめれ」と半笑い気味に口元を曲げて、庵にのっそり手を払い除けられる。
「いいよ気遣わなくて。俺やるよ。ののちゃんほっておけないし」
尻と腰の半分が既に座椅子からはみ出した状態で、庵は窓の外を見つめたままそう答える。
「じゃあ、観客で殴り込みにいこうかな。たのもーって。そしたらどっかの知らない大学生サークルが勝手に盛り上がってるみたいで君一人クローズアップされることもなくなるかもだし」
「いやそれもやめれって!(笑)…心配症だな本当に」
「前から思ってたけど庵、たまには僕や他の友達も頼りなよ。食事以外なら融通つけてあげるからさ」
「アキ?」
「頼られないっていうのも、友達がいが無いんだけどな」
晶の言葉に、庵はぐっと押し黙って、そのままそっぽを向いた。
「今日は厄日だ。みんな俺をイエスマンにしたがるんだお」
「違うよ。必要な選択肢の前でイエスって言いたそうなのに言わないから、言わせたくなるんだよ。何でも、君一人の頭脳で解決しようとしないの」
「むかつく言い方だなあ。 …分かったよ、テレビがどんなのか、他のみんなに体験してもらうのも面白いかもな」
敦あたり大喜びじゃね?と冗談交じりに庵が答えると、晶はにっこりと笑い返した。
【8月1日・まったりな二人・その頃マネージャーは夏彦主催スーパー説教タイムへ・のどかはアイアイの看病中・続く】
「庵」
ホテルの待合いロビーでは、庵は一人夏の日差しを避けるようにソファへ身体を埋めていた。
一瞬驚いたのか身震いすると、膝を抱えるように丸まったまま浮かない顔を晶に向けて「よ」と手を小さく振った。
「事情聞いた」と隣へ腰掛けると、庵は「そっか」と顔を全面ガラス張りのテラス向こう、眩しい市街地の風景へと視線を向ける。
絨毯の上でくっきりと日なたと日陰の境界線が分かれ、ガラス一枚隔てた向こう側では、クーラーのきかない室内で欠伸をしながら蒸し暑さでけだるく寝返りを打っている誰かがいるのかと思うと、不思議な気分になる。
空調は熱くも寒くもなく、空気も湿っぽいホテルの館内は、切り取られた別室のようだった。
「みんな来てるのか?」
「他の部屋に」
「そっか、ごめん」
「弱ったね」
「だよなあ」
短い受け答えののち、とりあえず情報を交換しあうと互いにソファにもたれたまま押し黙ってしまう。
「どうするの」と晶が訊ねると、庵は「どうしようかな」とさばさばとした答えを返してきた。
「多分、出ないといけないんだろうな、とは思う」
「出る気はあるんだ。意外だな」
「だって、俺がやらないとののちゃんがステージでお地蔵さんになるのが目に見えてるし」
「優しいなぁ」
「優しかないって。普通だろ。ののちゃんじゃなくてお前だったとしてでも、俺やっぱそう思うし」
「そうなの?ありがと」
でも、困ったねと晶は一息ついてソファに深く座り直す。
「出たくないんでしょ?庵」
「出なくていいならな。でも…」
他の選択肢が提出出来なくて、どうしようもない感じだ、と独り言のように呟いて俯く。
「オカンがさ、まだ俺がテレビ出ようとしてるんじゃないかって勘ぐってたよ。どっから何聞いたか知らないけどさ…またあれこれ言われんの嫌なんだろうけど、ちょっとカチンと来ちゃう訳よな」
「台風で一泊した時?」
「そう、あん時。ああ見えてオカン、外面いい割に身内にはあれこれ注文してくるから。嫌になるぜ」
「困ったね」
「ちょっちな。…かといって、見捨てたらまた一生恨まれそうな人間が増える訳でさ。でもってSIGAの株価とか現状ざっと調べたけどかなり経営状態良くなさそう。逼迫してるのは間違いない感じだ。最悪。マジどうしよって感じ」
「現状どうする気なの」
「出ると前提して、どこまで俺の融通が利くか訊ねてみるよ。あんまりな内容だったら、ののちゃん連れてタクシーで逃げる」
「僕らがいるじゃない」
「待っててくれんの?多分イエスと言うまで軟禁されるの必至だぜ?何時間待たせる事になるか」
笑えないけど、有り得るよなあそういうの、と庵が苦笑すると、晶は「それなんだけど」と、そっと口を開く。
「さっきマネージャーさんと話してて」
「うん」
「僕らも一緒で、というのはどうかな」
「晶たちも?!」
「そうそう」と晶は肘掛けに頬杖をついて言葉を続ける。
「少なくとも僕らが側に居れば、スタッフが君に妙な事をいきなりさせようとしても止められるし、目を光らせておけるよ」
「分かってないな」と庵は呆れ気味に言葉をきり返す。
「お前、高校時代の経験で分かってるかと思ってたのに。テレビの業界人は欲も業も深いのが多いぜ。表向きの建前だけで相手しようと思ったら何度も痛い目見るぞ。晶や先輩たちにまで迷惑かけるの、俺やだよ」
「どうせ逃げられそうにないじゃない。精神的に。計算づくで連れてきてるんだろうからマネージャーさんはしてやったりだろうけど、僕らもアイアイの状態見たら流石に胸が痛むし、かといって僕の親の力でどうにかなるもんでもなさそうな話だしねー」
お金とか生臭い話はちょっとねえ、とお互いに顔を見合わせて肩をすくめてみせる。
「おやじさんの知り合いって言ったら、小さな興行するようなんじゃなくって太平洋でマグロ釣ってそうなイメージが」
「あながち間違ってないね。父さんの友達、いちいち肩書きがごっつい人ばっかりで僕なんかは恐縮してばかりだよ」
「だよなー。それに、お前だっておやじさんに貸し作りたくないだろ?」
「一回くらいなら、融通してもいいけど?」
「やめとけよ。お前のおやじさん、絶対そういう甘えた言動狙ってるって。将来貸しを盾に何要求されたものか」
「したたかだもんなー」
庵もそのくらい割り切ってたら楽だったのにね、と晶が呟くと、庵は悟った風で苦笑をこぼす。
「仮に出て行った場合、倒産だなんだでまた色々と書き立てられる事考えたら、マイナーゲームの興行くらい手伝ってもいいのかもな」
「なるほど、そういう腹づもり」
「そうそう。こっちはいきなり頼まれてるんだから無下に断ったっていいはずなんだ。でも、それが次に顔を合わせた時に口実になるかもしれない。俺のせいじゃないのに『お前のせいで会社潰れた』とかさー、もう俺右斜め上な八つ当たりって勘弁なんだよなー…」
ずるずるとソファから滑り落ちそうなほどにだらりともたれかかって顔を埋める庵に、晶は「一人で悩まないの」と、そっと手を伸ばして後頭部をじょりじょりと撫でる。ワックスがいつもの倍量でガチガチな毛先の感触がくすぐったい。
遊んでいると「やめれ」と半笑い気味に口元を曲げて、庵にのっそり手を払い除けられる。
「いいよ気遣わなくて。俺やるよ。ののちゃんほっておけないし」
尻と腰の半分が既に座椅子からはみ出した状態で、庵は窓の外を見つめたままそう答える。
「じゃあ、観客で殴り込みにいこうかな。たのもーって。そしたらどっかの知らない大学生サークルが勝手に盛り上がってるみたいで君一人クローズアップされることもなくなるかもだし」
「いやそれもやめれって!(笑)…心配症だな本当に」
「前から思ってたけど庵、たまには僕や他の友達も頼りなよ。食事以外なら融通つけてあげるからさ」
「アキ?」
「頼られないっていうのも、友達がいが無いんだけどな」
晶の言葉に、庵はぐっと押し黙って、そのままそっぽを向いた。
「今日は厄日だ。みんな俺をイエスマンにしたがるんだお」
「違うよ。必要な選択肢の前でイエスって言いたそうなのに言わないから、言わせたくなるんだよ。何でも、君一人の頭脳で解決しようとしないの」
「むかつく言い方だなあ。 …分かったよ、テレビがどんなのか、他のみんなに体験してもらうのも面白いかもな」
敦あたり大喜びじゃね?と冗談交じりに庵が答えると、晶はにっこりと笑い返した。
【8月1日・まったりな二人・その頃マネージャーは夏彦主催スーパー説教タイムへ・のどかはアイアイの看病中・続く】
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