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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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灯台もと暗し。

*

最終確認が終わり、本番まであと少し。

1時間前に大体の通しを終わらせ、庵は舞台の袖裏からは敢えて外の状況を覗かずに、中でそのまま待機する。
庵にとっては現担ぎのようなもので、人がいようといまいと緊張するタチだった自分を追い込むために、どれだけの人数でも笑顔を作れるようにする訓練をした。そのため、一人でもがっかりせず、数万の人垣でも笑顔で挨拶が出来るようになった。
寂しくも虚しい、だが、処世術としては非常に役立つスキル。
会場の方から声は聞こえるが、きっと会場周辺のアトラクションからの歓声だろう。何だか声が遠く感じる。
それとも、たくさんの観衆に詰めかけていてほしくて、遠くの声を近くに聞こえている気になっているのだろうか。

まさかな、と庵は自嘲し首を振る。
舞台裏では既に硬直しかかっているのどかのみならず、男性陣も少なからず本番前の緊張に戸惑っているようであった。

「なあ、アンダーウェアよれてね?どっかおかしいとこないか」
「大輔さんははまりだからオーケー、ですよ。ユニ似合ってますから」
「マジか?出来るなら白と橙が良かったんだが…」
「スポンサー支給なんですから文句言わないですよ。逆にヒゲ先輩なんか自前だし」
「自前じゃねーよ!ちゃんと借り物だ!…フラスコの中身、さっきからたぷんたぷん音がするんだが大丈夫かこれ?熱で中溶けてやしないか?」
「溶けて中身撒いたら撒いたで美味しくネタにさせていただきます」
「…えーっとそれはフォローしてくれるって意味に受け取っていいんだな安佐?頼むぞ本当に」
「大丈夫かなー僕ー、本落っことしたらどうしよー…」
「敦君敦君、筐体の基盤上に落っことさなければええことよ。後、勢い余って観客に投げちゃうとかしなかったらだいじょぶよ」
「あわわわわ…足滑らせない様に気をつけますぅ」
「多分汗かいて床面に落ちるだろうから、スリップはマジ注意しろな。ひどかったらスタッフに拭いてもらうよう段取りついてるからさ。あと、熱中症ぽくなったらすぐ言えよ。洒落にならないから」
「はいぃ…うう、緊張するなぁ…怖いなあ…足ぷるぷるしてきたですぅ…」
「庵、さっきスタッフから刺身包丁持って出てくれって言われて流石に断ったんだけど、いいよね?麺棒持って出るんだし」
「俺もその方がいいと思う。つか、いくらその格好だからって包丁はまずいだろ?スタッフもいきあたりばったりだよなあ」
だよねー、と晶も困った風に口を尖らせて、厚手の板前衣装の裾をつまんでパタパタ隙間へ空気を送る。
本当に地が厚いようで、チラチラ見える素肌や筋肉に赤みが差している。汗でかぶれているのを見とがめると、庵は裏からベビーパウダーを持ってきて、衣装からはみ出ないようにそっと細かくパフパフと丁寧に叩いてやる。
「さすが庵、気が利くんだ」
「まあな。元ギョーカイ人の経験よ」
「ありがと。ちょっと楽になった。…しっかし、コック服がなかったからってこれはないよねぇー」
板前衣装の裾を憎らしげにつまみながら、顔をしかめる晶に「似合ってるんだけどなあ」と庵は苦笑い。
「やだよ、僕あんまり肌強くないのにさー…痒いし、あっついし、汗で日焼け止め流れてる気がする。これなら革ジャンのがまだましだよ」
「しかたないだろ?ロックスターの格好、お前にはサイズ小さすぎて着れなかったんだし。俺はあの格好似合わないし、お前ジャンル的にもはまりだし。コックじゃないのー?って聞かれたらご当地グルメに合わせて和風コックにしてみました、でオッケー」
「えええー?ビジュアル的にいかにもコスプレじゃない!これゲームに出てくる衣装じゃないのに何で着てるのって感じじゃない?(※アンアンバージョン1には板前は無し)昨日なんかみんな僕見て爆笑するし!一人だけダウトとツッコミ確定な衣装だし!うう、恥ずかしいなあもう…」
「はまりすぎてっからつい、な(笑)晶君はイケメンうどん屋店主として四国に名を馳せるといいお( ´ω`)。な、ののちゃん」
「…」
「ののちゃーん…」
「…ダメだね、心が明後日の方向に行っちゃってるよ…」

男性陣がめいめいに最終チェックを済ませていく中、のどかは隅のパイプ椅子に腰掛けたまま台本を丸めて握って俯いている。
半径一メートル内の音すら聞こえているか怪しいテンパリぶりである。
既に口元もうっすら青い。

ぺしり、と晶に尻を叩かれると、そうされるまでもない、と言いたげに口を突きだして見せながら、庵はそっとのどかの肩に手を乗せる。
びくっ、と大袈裟に見えるほど身を震わせたのどかの視線が、目の前に居た庵にぶつかり、やっと姿を捉える。
あ、と何か言いたそうに俯いて唇をもごもごさせるのどかに、庵は大丈夫?と優しく静かに語りかける。

「ののちゃん、緊張しなくていいんだよ。俺ついてるから」
「う、うん…」
「何が心配?失敗したって大丈夫、俺がいる。場慣れしてるから、フォローは…」
「いや、そうじゃないの…あ、あのね、今こんな事言うのダメだって分かってるんだけど…」
「…?」
のどかはゆっくりと庵にまっすぐ顔を上げる。目を真っ赤にして、今にも涙がこぼれ落ちそうなほどに瞳を濡らしていた。

「…私、どうしてもっていうから引き受けたけど、もし、庵君やみんなにまで迷惑かけて、それで、もし失敗したら、藍ちゃんどれだけ落ち込むかなって…そりゃ、もともと私にお客さんは期待してないって思うけど、もしベスト尽くしても、庵君の足引っ張ったりとかしちゃって、それであんまりお客さんも来なかったら、と思ったら、すっごい怖くなって…これで藍ちゃんの事務所潰れたら私のせいかなとか、いろんな事考えてたら訳わかんなくなって…」
「ののちゃん…」

はたと気付いて、庵は自分が恥ずかしくなった。
俺、自分のことしか頭になかった。
のどかにしてみれば、親しい後輩の進退がかかった大事なショーなのである。
しかも、女性一人ということでほぼ立場的に代役。
相当なプレッシャーだったろうに、多分おれたちを気遣って今の今まで緊張しているなりに健気にも元気そうにふるまっていたのだ。
が、実際の現場に来て緊張が振り切れてしまったのだろう。
そして、直前の直前まで気付かなかった己を庵は激しく心中で責めた。

バカだ。バカは俺だ。
昔のトラウマで自己保身にばっかり走って、俺何やってたんだ!
一瞬のうちに、自分自身への怒り、憤激、失望と共に、足底から沸き立つようなやる気が漲る。
恥じ入る事も、詫びる事も、全て結果が出てからで良い。

『今、俺がしなければならないことは何だ?安佐庵!』

………。

やらなきゃダメだ。
俺しか、俺だけしか、この場を成功させられる奴はいない!
彼女にまで、自分のような足枷をはめさせはしない!

「開演五分前ですー」
ハリのない、間延びしたスタッフの声が微妙な減退感を残し舞台裏を抜けていく。
庵は、それを振り払うような凛とした声で「ののちゃん」とのどかの両肩を叩いた。

「円陣組もうか。大きい声出しておこう」
「え…」
「一発かましておいたら、後が楽だから。ね?はい全員集合ー」
ぱっとのどかの肩から手を離し、くるりと背を向けると庵は他の四人に集まるよう手招きをする。
「はいはーい」
「それもそうだな」
「そ、そうですね…声出し…あうう、出せるかなぁ、お腹までふるふるしてる気がしますぅ」
「おい安佐、表に聞こえやしないか?」

「聞こえるくらいがいいんです。俺達は伝えるために、これから舞台に上がるんですから」
そうでしょ?と振り返りながらのどかにも手招きを見せる。

のどかの表情がぱあ、と明るくなったのを見て、庵は心中で「よし」とガッツポーズを取る。
この笑顔を三時間キープし続けられたら、俺の勝ちだな。
また勝負事みたいな比喩を描いている自分に内心苦笑するも、その心の震えは悪しからぬ優しいくすぐったさだった。

「それじゃあみんな肩組んでねー」
「はーい」
そっとのどかの隣で、彼女の肩に手を回す。左隣で晶が「やっぱりそこだよね」と言いたげにニヤっと口元を曲げていた。

「それじゃあ、がんばっていきまっしょーい!」
「やっしょーーーぅい!!」

【8月3日昼・さあ本番ですよ・続く】












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