クイズ魂の雄叫び。
*
「みんなー!あっつい中来てくれてありがとぉーーーー!っていうかだな!なんで!俺が来るの知ってるんだこらあああ!!」
庵がハイテンションなノリに任せてやけっぱち気味な問いかけを投げつけると、観衆は即座に「知ってるよぉー!」とそこかしこから返事が返ってくる。
「だって、今朝ゲートでビラ配ってたもん!!」
「アンサー庵来るってデカデカと!今日レオナ来て良かったよーー!!」
「エエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「ななななんだとコラアアアアア!!!」
のどかと一緒に庵、そこかあああ!と思わずマイクに向かって叫ぶ。
盲点だった。
まさか、自分たちが朝入場した後で当日用のチラシが配布されていたとは…。
つか、それって昨日のチェックしたサンプルとはまた違う、俺の名前が入ったチラシを用意してたってことだよな!?
あのクソマネージャーめっ!後でヌッコロス!
心の中で心底悪態をついて、庵は眉毛がぴくぴく引きつるの感じた。
「(ちくしょう、俺等が知らない所で余計な事を…!!つかこれ、規約違反じゃねえのかよっ!)」と思うも、庵は憤怒の相を笑顔に押し殺して司会続行。
「そ、そっかー!俺もいきなりの話だったからなー」と、棒読みで微妙な照れ隠し。
会場やや受け。
「当日告知だったけど、ダチにメールしたらみんな来たぞー」
「美人なアシスタントも一緒だって!」「隣の女の子可愛いー!!」
「あっ、ああああありがt(舌ガブッ)…いったああああああ!」
「ドジッ子だー」「ドジッ子いいぞー!」「スッチーお姉さん頑張ってー!」
天然で舌を噛んで悶絶するのどかに、そこかしこから野太い声援が飛ぶ。
「(…ぐっ、むかつく…野郎の声援が何だか凄いむかつく…!)」
「ごにょごにょ…い、庵君庵君、顔がすっごい怖いよっ!何だかサングラスかけてるのにラ●ウ様みたいになってる…」
「はっ…ご、ごめんののちゃん…(俺としたことが、怒りで我を忘れるとは…いかんいかん、平常心だ俺、早押しボタンは俺の友達)」
不快指数が上がったのが知れたのか、庵の表情が一気に険しくなったのを見とがめて「いおりん怖いよー」と半笑いのヤジ。
やや受けでどっと沸く会場に納得いかない庵であったが、これで大体の客の流れは掴めた。
後で、アイアイのマネージャーを心ゆくまで締め上げる事を固く決意すると、レイバンをおでこに押し上げて「にぱー」と幼稚園児のような(と昔褒められた)満面の営業スマイルを浮かべる。
「えー、今日は暑い中、しかも当日告知という状況の中、会場まで来てくださった皆様に感謝!今回は総合司会のアイアイが急病でドクターストップかかったとのことで、ピンチヒッターとして急遽参りました、アンサー庵こと安佐庵です!よろしくお願いしまーす!」
大きく沸き返る会場。庵はスキを作ることなく、淀みなくインカムに向かって言葉を放つ。
「で、今日は緊急事態という事で!アイアイのお友だちの安西さんにアシスタントをお願いしてー…」
ここで、傍らに立つのどかをそっと前列へと手を取ってエスコート。
おおおお、と歓待の歓声がそこかしこから拍手となって巻き起こり、のどかも顔を真っ赤にしながら笑顔で小さく手を振る。
「俺と、俺の所属してる大学のサークル仲間と友達、今日は全員コスプレしてクイズで対戦しまっす!!」
言い切って、庵とのどか、二人並んで息ピッタリに敬礼のポーズを決めると、会場からは温かい拍手が返ってくる。
ほっとする間もなく、観衆のざわめきが消える前に沈黙を破って庵は続けて口火を切る。
「今、たまたま大学のクイズ研究部サークルの友達とブラブラ旅してる最中だったので!ついでだし!どうせだし!
ってことで今日はアンサーアンサーというクイズゲームの紹介しながら、現役大学生、しかもクイズサークルの連中を倒せという企画でいっちょやってみたいと思いますっ!
刺客は四人!そして彼女!
とりわけ腕に自信有りな猛者は、ふるって俺と対戦!
終わったらもれなく俺と握手!
このゲーム、知らない人のために説明すると、早押しクイズが遊べちゃう!
全国で早押しクイズ大好きなプレイヤーと対戦出来る!
勿論俺も毎日やってます!!」
おおおおっ、とやっぱりと言う代わりの歓声が会場から聞こえてくる。
対戦したーい、と誰かが叫んだ声を、庵は耳聡く拾うと「俺もしたい!」と即座に返す。
「一昔前!俺が生まれた年を境にクイズはどんどんなくなって、それでも俺は押したかった!
だから俺は出続けた!早押しボタンのある所へ!
そこには血湧き肉躍る興奮とスリル、そして何より得難い快感があったからだ!
だが、ウ●トラクイズも俺が赤ん坊の頃になくなって!!
視聴者参加のクイズなんて、今や全国区はアカデミックとアタック25だけ!
そんな昨今、クイズ番組はめざましい再生を遂げている!
だがそこにいるのは誰だ!?お馬鹿タレントばかりだと!!
俺達視聴者の待ち望んでいたのは、そんな生ぬるいおバカキャラの祭典じゃなかったはずだ!!」
そうだーっ、とどこからともなく声がする。庵の演説は続く。
「日本のどこかで誰かが叫んだ。俺達はクイズがしたいと!
日本のどこかで誰かが呟いた。
俺達は、生身の血が通う、熱い血潮をたぎらせた誰かと戦いのだと!!
子供だましの謎かけなんぞ、タレントに任せて!!
どっかの誰でもいい、真剣勝負の早押しがしたいのだと!!
知性の奏でる熱気を!感動を!
マルとバツの悲哀と歓喜を!!コンマゼロ秒のせめぎあいをっ!!
それを叶えるゲームが今、この二十一世紀に出来たというのにこの認知度はなんだ!?
ゲーセンは不良のたまり場なんかじゃない、今や知性の社交場だ!
ここを見ろ!ここの筐体の向こうで、今も誰かが君たちの熱い挑戦を待っている!
俺達に必要なものはただ二つ、入り口を知るきっかけ、そして一歩踏み出す勇気だけだ!!」
一息に言い切って、庵は一呼吸置いて深く深呼吸する。
固唾を飲んで見守る観衆に、庵は拳を突き上げて叫んだ。
「みんな、早押ししたいかーー!!」
庵の魂の叫びに、観衆が一体となって答える。
「やりたーーーい!」「押したいぞーーー!!」
「お前と対戦したいっ!!」「したーーーい!!」
「俺の背中を見ろ!!でっかいビジョンで大写しになるぞ!それでも怖くないかーー!!」
「怖くないぞーー!!」「おおおお!!」「ないでーーーす!!」
「罰ゲームはないが!明日!!職場で噂になるかもしんないぞーーー!!それでもいいのかーーー!!」
「構いませーーーーん!!」「むしろお前と対戦したいっ!!」
「オッケーーーーーイィ!!ならばかかってこい!むしろ来い!!返り討ちにしてやるぜ!!いでよ、クイズ刺客っ!!」
指差された緞帳の裏では、「えっ!えええ!」と敦が一瞬にしてMAXゲージでテンパっていた。
彼だけでない、他の三人も庵の演説に聞き入って我を忘れていた。
通しのリハーサルでは「んじゃ何か適当に言っておくわ」で済ませた、前説の中身がこれとは。
つか、この興奮最高潮の状態で素人に出て行って更に盛り上げろとか。
ハードル爆上げもいいところである。
自重しろ庵と大輔は毒づくも、悪い気分ではなかった。
むしろ、笑い出したいくらいに痛快な気分であった。
庵は、自分がそう大したものではないと言いたげなそぶりを取ることが多いが…とんでもない。
即興なのか、一日二日で練り込んだものなのかは定かではないが、一体誰がこれほどの熱い内容をもって会場に振って沸き返らせる事が出来るというのか。
内容自体は非常にクサイ事この上ないのに、胸に込み上げるこの感情はなんだ。
四人とも皆会場の真ん中で同じように叫びだしたい気分であった。
きっと、最高に気分がいい。そんな事を思った。
晶は、袖裏でじっと出番のフリを待ちながら、いつしか庵の演説に飲まれる自分を感じ親友の凄みを改めて痛感する。
ハリセンはおろか、何の小道具も無しで他人を惹き付ける、あの輝くような魅力。
あれを天性と言わず、何と言おう。
やはり、庵は星があるんだ。天から与えられた才能の星が。
晶は改めて己の平凡さを痛感すると共に、すぐ身近にいる友人の非凡さを再確認する。
どうあがいても埋まりようのない、秀才と天才の差。
だが、それを悔しいとは思わない。
それは、愛すべき輝きだと知っているから。
「ほら、敦出て!後ろが詰まるから!」
晶にぺしり、と腰を叩かれ我に帰った敦は涙目でぶんぶん首を振る。
「えっ!?ちょっ嫌です僕やっぱり最後がいいですうううう!!」
「ワガママ言うなっ!お前足がすくむから敢えて最初って言ったんだろうが!自分で志願しておいて何を今更!」
「四の五の言ってないで、出ろっ!!…つおりゃあああ!!」
「あひいいいいいいいいいい!!」
思いっきり大輔に尻を蹴飛ばされ、情けない声を漏らしながらステージの隅に転げ出た敦に、慌ててのどかが「大丈夫ーー!?」と駆け寄る。
「こんな感じで、転んでも可愛いキャビンアテンダントさんが介抱してくれますおー( ´ω`)初心者の方も超安心!」
どっと受けて笑いのこぼれる会場を庵がフォローしてる間に、目配せで指示を受けたのどかは泣きそうになっている敦をそっと立たせて「大丈夫だよー」と慰める。恥ずかしさで顔がトマトのような色になっている敦の背後から、ぞろぞろと他の三人もステージに姿を現す。
白衣姿に大きなフラスコを握った夏彦。
地元アイランドリーグの香川チームユニを来た大輔。
ハリセンの代わりに麺棒を握って出てきた板前姿の晶が会場にお目見えした所で、そこかしこから「晶くーん!」「ハリセーン!」の歓声が沸いた。晶はさりげなく、さりげなく、照れくさそうにしつつも、だがはっきりと小さく手を振った。
「大丈夫かー」と手をさしのべた大輔の手を掴みながら、学者仕様のベストと重たい広辞苑を抱かされた敦は真っ赤な顔で大輔に「酷いですうう!!」と怒りも露わに詰め寄る。
「いいいい痛い…!大輔さんホントにひっどいですよぅ!!」
「あー悪い悪い。以後気をつけるわ(棒読み)」
「絶対思ってない!思ってないですよう!!」
「あーはいはい、そこケンカしないー。ケンカするならクイズでしようなー?…と、いう事で!まずはこの野球青年と文学系学者少年にデモプレイしてもらいまーす!」
「ええっ!?」「聞いてないぞっ!?」
デモプレイは、会場から観客を選んでプレイしてもらう段取りだったはずだ。
唐突な無茶振りに戸惑う二人に、庵は情け容赦なく「行け」と言う代わりにステージ中央へ据え付けられた筐体を親指でぐっ、と指差しアゴをしゃくった。
額から引き下ろしたレイバンに隠した瞳の奥から、「とっととやれ」と殺意のこもった視線を込めながら。
「・・・」「・・・」
今更ながら元芸能人の仕切り能力を甘く見ていたと、庵以外のメンバー全員がひしひしと痛感した瞬間であった。
【8月3日・この元クイズ王ノリノリである・敦涙目・大輔はオリーブガイ●ーズのユニ・続く】
「みんなー!あっつい中来てくれてありがとぉーーーー!っていうかだな!なんで!俺が来るの知ってるんだこらあああ!!」
庵がハイテンションなノリに任せてやけっぱち気味な問いかけを投げつけると、観衆は即座に「知ってるよぉー!」とそこかしこから返事が返ってくる。
「だって、今朝ゲートでビラ配ってたもん!!」
「アンサー庵来るってデカデカと!今日レオナ来て良かったよーー!!」
「エエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「ななななんだとコラアアアアア!!!」
のどかと一緒に庵、そこかあああ!と思わずマイクに向かって叫ぶ。
盲点だった。
まさか、自分たちが朝入場した後で当日用のチラシが配布されていたとは…。
つか、それって昨日のチェックしたサンプルとはまた違う、俺の名前が入ったチラシを用意してたってことだよな!?
あのクソマネージャーめっ!後でヌッコロス!
心の中で心底悪態をついて、庵は眉毛がぴくぴく引きつるの感じた。
「(ちくしょう、俺等が知らない所で余計な事を…!!つかこれ、規約違反じゃねえのかよっ!)」と思うも、庵は憤怒の相を笑顔に押し殺して司会続行。
「そ、そっかー!俺もいきなりの話だったからなー」と、棒読みで微妙な照れ隠し。
会場やや受け。
「当日告知だったけど、ダチにメールしたらみんな来たぞー」
「美人なアシスタントも一緒だって!」「隣の女の子可愛いー!!」
「あっ、ああああありがt(舌ガブッ)…いったああああああ!」
「ドジッ子だー」「ドジッ子いいぞー!」「スッチーお姉さん頑張ってー!」
天然で舌を噛んで悶絶するのどかに、そこかしこから野太い声援が飛ぶ。
「(…ぐっ、むかつく…野郎の声援が何だか凄いむかつく…!)」
「ごにょごにょ…い、庵君庵君、顔がすっごい怖いよっ!何だかサングラスかけてるのにラ●ウ様みたいになってる…」
「はっ…ご、ごめんののちゃん…(俺としたことが、怒りで我を忘れるとは…いかんいかん、平常心だ俺、早押しボタンは俺の友達)」
不快指数が上がったのが知れたのか、庵の表情が一気に険しくなったのを見とがめて「いおりん怖いよー」と半笑いのヤジ。
やや受けでどっと沸く会場に納得いかない庵であったが、これで大体の客の流れは掴めた。
後で、アイアイのマネージャーを心ゆくまで締め上げる事を固く決意すると、レイバンをおでこに押し上げて「にぱー」と幼稚園児のような(と昔褒められた)満面の営業スマイルを浮かべる。
「えー、今日は暑い中、しかも当日告知という状況の中、会場まで来てくださった皆様に感謝!今回は総合司会のアイアイが急病でドクターストップかかったとのことで、ピンチヒッターとして急遽参りました、アンサー庵こと安佐庵です!よろしくお願いしまーす!」
大きく沸き返る会場。庵はスキを作ることなく、淀みなくインカムに向かって言葉を放つ。
「で、今日は緊急事態という事で!アイアイのお友だちの安西さんにアシスタントをお願いしてー…」
ここで、傍らに立つのどかをそっと前列へと手を取ってエスコート。
おおおお、と歓待の歓声がそこかしこから拍手となって巻き起こり、のどかも顔を真っ赤にしながら笑顔で小さく手を振る。
「俺と、俺の所属してる大学のサークル仲間と友達、今日は全員コスプレしてクイズで対戦しまっす!!」
言い切って、庵とのどか、二人並んで息ピッタリに敬礼のポーズを決めると、会場からは温かい拍手が返ってくる。
ほっとする間もなく、観衆のざわめきが消える前に沈黙を破って庵は続けて口火を切る。
「今、たまたま大学のクイズ研究部サークルの友達とブラブラ旅してる最中だったので!ついでだし!どうせだし!
ってことで今日はアンサーアンサーというクイズゲームの紹介しながら、現役大学生、しかもクイズサークルの連中を倒せという企画でいっちょやってみたいと思いますっ!
刺客は四人!そして彼女!
とりわけ腕に自信有りな猛者は、ふるって俺と対戦!
終わったらもれなく俺と握手!
このゲーム、知らない人のために説明すると、早押しクイズが遊べちゃう!
全国で早押しクイズ大好きなプレイヤーと対戦出来る!
勿論俺も毎日やってます!!」
おおおおっ、とやっぱりと言う代わりの歓声が会場から聞こえてくる。
対戦したーい、と誰かが叫んだ声を、庵は耳聡く拾うと「俺もしたい!」と即座に返す。
「一昔前!俺が生まれた年を境にクイズはどんどんなくなって、それでも俺は押したかった!
だから俺は出続けた!早押しボタンのある所へ!
そこには血湧き肉躍る興奮とスリル、そして何より得難い快感があったからだ!
だが、ウ●トラクイズも俺が赤ん坊の頃になくなって!!
視聴者参加のクイズなんて、今や全国区はアカデミックとアタック25だけ!
そんな昨今、クイズ番組はめざましい再生を遂げている!
だがそこにいるのは誰だ!?お馬鹿タレントばかりだと!!
俺達視聴者の待ち望んでいたのは、そんな生ぬるいおバカキャラの祭典じゃなかったはずだ!!」
そうだーっ、とどこからともなく声がする。庵の演説は続く。
「日本のどこかで誰かが叫んだ。俺達はクイズがしたいと!
日本のどこかで誰かが呟いた。
俺達は、生身の血が通う、熱い血潮をたぎらせた誰かと戦いのだと!!
子供だましの謎かけなんぞ、タレントに任せて!!
どっかの誰でもいい、真剣勝負の早押しがしたいのだと!!
知性の奏でる熱気を!感動を!
マルとバツの悲哀と歓喜を!!コンマゼロ秒のせめぎあいをっ!!
それを叶えるゲームが今、この二十一世紀に出来たというのにこの認知度はなんだ!?
ゲーセンは不良のたまり場なんかじゃない、今や知性の社交場だ!
ここを見ろ!ここの筐体の向こうで、今も誰かが君たちの熱い挑戦を待っている!
俺達に必要なものはただ二つ、入り口を知るきっかけ、そして一歩踏み出す勇気だけだ!!」
一息に言い切って、庵は一呼吸置いて深く深呼吸する。
固唾を飲んで見守る観衆に、庵は拳を突き上げて叫んだ。
「みんな、早押ししたいかーー!!」
庵の魂の叫びに、観衆が一体となって答える。
「やりたーーーい!」「押したいぞーーー!!」
「お前と対戦したいっ!!」「したーーーい!!」
「俺の背中を見ろ!!でっかいビジョンで大写しになるぞ!それでも怖くないかーー!!」
「怖くないぞーー!!」「おおおお!!」「ないでーーーす!!」
「罰ゲームはないが!明日!!職場で噂になるかもしんないぞーーー!!それでもいいのかーーー!!」
「構いませーーーーん!!」「むしろお前と対戦したいっ!!」
「オッケーーーーーイィ!!ならばかかってこい!むしろ来い!!返り討ちにしてやるぜ!!いでよ、クイズ刺客っ!!」
指差された緞帳の裏では、「えっ!えええ!」と敦が一瞬にしてMAXゲージでテンパっていた。
彼だけでない、他の三人も庵の演説に聞き入って我を忘れていた。
通しのリハーサルでは「んじゃ何か適当に言っておくわ」で済ませた、前説の中身がこれとは。
つか、この興奮最高潮の状態で素人に出て行って更に盛り上げろとか。
ハードル爆上げもいいところである。
自重しろ庵と大輔は毒づくも、悪い気分ではなかった。
むしろ、笑い出したいくらいに痛快な気分であった。
庵は、自分がそう大したものではないと言いたげなそぶりを取ることが多いが…とんでもない。
即興なのか、一日二日で練り込んだものなのかは定かではないが、一体誰がこれほどの熱い内容をもって会場に振って沸き返らせる事が出来るというのか。
内容自体は非常にクサイ事この上ないのに、胸に込み上げるこの感情はなんだ。
四人とも皆会場の真ん中で同じように叫びだしたい気分であった。
きっと、最高に気分がいい。そんな事を思った。
晶は、袖裏でじっと出番のフリを待ちながら、いつしか庵の演説に飲まれる自分を感じ親友の凄みを改めて痛感する。
ハリセンはおろか、何の小道具も無しで他人を惹き付ける、あの輝くような魅力。
あれを天性と言わず、何と言おう。
やはり、庵は星があるんだ。天から与えられた才能の星が。
晶は改めて己の平凡さを痛感すると共に、すぐ身近にいる友人の非凡さを再確認する。
どうあがいても埋まりようのない、秀才と天才の差。
だが、それを悔しいとは思わない。
それは、愛すべき輝きだと知っているから。
「ほら、敦出て!後ろが詰まるから!」
晶にぺしり、と腰を叩かれ我に帰った敦は涙目でぶんぶん首を振る。
「えっ!?ちょっ嫌です僕やっぱり最後がいいですうううう!!」
「ワガママ言うなっ!お前足がすくむから敢えて最初って言ったんだろうが!自分で志願しておいて何を今更!」
「四の五の言ってないで、出ろっ!!…つおりゃあああ!!」
「あひいいいいいいいいいい!!」
思いっきり大輔に尻を蹴飛ばされ、情けない声を漏らしながらステージの隅に転げ出た敦に、慌ててのどかが「大丈夫ーー!?」と駆け寄る。
「こんな感じで、転んでも可愛いキャビンアテンダントさんが介抱してくれますおー( ´ω`)初心者の方も超安心!」
どっと受けて笑いのこぼれる会場を庵がフォローしてる間に、目配せで指示を受けたのどかは泣きそうになっている敦をそっと立たせて「大丈夫だよー」と慰める。恥ずかしさで顔がトマトのような色になっている敦の背後から、ぞろぞろと他の三人もステージに姿を現す。
白衣姿に大きなフラスコを握った夏彦。
地元アイランドリーグの香川チームユニを来た大輔。
ハリセンの代わりに麺棒を握って出てきた板前姿の晶が会場にお目見えした所で、そこかしこから「晶くーん!」「ハリセーン!」の歓声が沸いた。晶はさりげなく、さりげなく、照れくさそうにしつつも、だがはっきりと小さく手を振った。
「大丈夫かー」と手をさしのべた大輔の手を掴みながら、学者仕様のベストと重たい広辞苑を抱かされた敦は真っ赤な顔で大輔に「酷いですうう!!」と怒りも露わに詰め寄る。
「いいいい痛い…!大輔さんホントにひっどいですよぅ!!」
「あー悪い悪い。以後気をつけるわ(棒読み)」
「絶対思ってない!思ってないですよう!!」
「あーはいはい、そこケンカしないー。ケンカするならクイズでしようなー?…と、いう事で!まずはこの野球青年と文学系学者少年にデモプレイしてもらいまーす!」
「ええっ!?」「聞いてないぞっ!?」
デモプレイは、会場から観客を選んでプレイしてもらう段取りだったはずだ。
唐突な無茶振りに戸惑う二人に、庵は情け容赦なく「行け」と言う代わりにステージ中央へ据え付けられた筐体を親指でぐっ、と指差しアゴをしゃくった。
額から引き下ろしたレイバンに隠した瞳の奥から、「とっととやれ」と殺意のこもった視線を込めながら。
「・・・」「・・・」
今更ながら元芸能人の仕切り能力を甘く見ていたと、庵以外のメンバー全員がひしひしと痛感した瞬間であった。
【8月3日・この元クイズ王ノリノリである・敦涙目・大輔はオリーブガイ●ーズのユニ・続く】
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