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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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遠い日の茜空。
*

大輔の両親の馴れ初めは、不思議なもので長女ハナのそれとどこか似ていた。

当時、父親の経営していた小さなラーメン店の看板娘だった母は、ある日客の一人に一目惚れした。
彼は、鹿児島から博多へ仕事で赴任してきたばかりという教師で、高校で歴史を教えていたという。
その他にも教育指導にも熱心で、度々繁華街へ見回りに出ては非行に走ろうとする子供たちを学校の区別無く指導して回るなど、生徒たちからも慕われていたそうだ。だが、その行動力とは裏腹に性格は実に穏やかで、いつも静かに微笑んでいるような控えめな人格者であったと、女将は当時を振り返り「あんな紳士な人は後にも先にもしらんとね」と、しみじみ漏らした。

その後二人の交際は順調に進み、ほどなく結婚し一男一女をもうけた。
実家のラーメン屋も弟子が自立しチェーン店となり、どの店でも行列が出来るほどの人気店となった。
ラーメン屋からは身を引き専業主婦となったが、夫は真面目でよく働き、家計は豊かで子供もすくすくと育つ。
全て順風満帆。そう思っていた矢先の事だった。

最初は、父親の急死だった。

元々大酒飲みで肝臓を悪くしていた父がぽっくりと逝ってしまった翌年に、跡継ぎとして店を切り盛りしていた兄まで突然事故死してしまった。
急ぎ本店を一番弟子に任せたものの、この男は腕は良かったが経営の才能がなく、経費削減として材料や人件費をケチった結果、瞬く間に店の評判を落としてしまった。
支店長たちや親族での度重なる会議の末、本店の味を知る者としてやむなく彼女は呼び戻され、子供達は保育園に預けての生活に。
また、同時期に夫も別の学校に赴任が決まり、お互いの環境が変わる中で家族がすれ違う生活が始まってしまった。

店が安定するまでの事、一年頑張って店を元通りにしたら、専業主婦に戻って家族一緒の生活に戻ろう。
そう思いつつ、店は予想以上の繁盛を取り戻したものの女将の人徳に惚れ込んで戻ってきた客は「女将の作る味が伯楽の味だ」とふれ回る。
自分の存在が店の看板となってしまい、引き際が見えなくなり、家に帰っても寝ている子供達の顔を横目に朝ご飯の支度をしながら、起きる前には出て行って仕込みをしなければならない。申し訳なさで一杯になる。だが、誕生日もクリスマスも、仕事仕事で家族との記念日すら祝えない忙しい毎日が続いた。

子供たちは自分の仕事を理解してくれていた。だから、ワガママも言わなかった。
夫もきっとそうだったのだろう。
だからこそ、未だに後悔している。

辛抱強い人で、実家の危機を前に頑張っている妻に負担をかけまいと気遣ってくれたのだろう。
最後の最後まで、愚痴の一つも言わず、張りつめていた糸が切れるまで耐えてしまったのだろう。

冬の寒い日だった。
二週間前に、大輔が小学校に上がるからと、ランドセルを買いに行ってくれた。
その頃、姉のハナは小学校近くの親戚に預け、大輔は保育園に近かった実家にいたため父子二人の夕食が多かった。

その日夜遅く帰ってきた父親に、一人で風呂に入って出た大輔はいつも通りに「とおちゃんおかえり」と出迎えた。

父は無言で靴を脱いだ。

その日はスポーツニュースで二人の大好きなホークスの春期キャンプ情報が流れていた。
「とおちゃんホークス来年はゆうしょうすると?」と訊ねる息子に、父は卓袱台に俯いたまま答えなかった。

テレビを消すと、幼い大輔は「とおちゃん今日のばんごはんてんぷら」と、サツマ揚げとエビ天を出した。
「とおちゃんビールのむと?」とビール瓶ももってきて、ちゃんと栓抜きも出来た。

息子は、父の言葉を待った。
机の下から顔を覗き込んだが、顔を隠すように組まれた掌で、表情は見えなかったという。

父は何も言わず、俯いたままだった。

翌朝、まだ出かけるには早いはずの五時過ぎ、薄暗い室内。
幼い大輔は物音で目を覚まし、玄関に向かうと今まさに父が出て行くところであった。
よたよたと、寝ぼけ眼で父の背中に、大輔は声をかけた。

「とおちゃんいってらっしゃい」

父は何も言わず、出て行った。

それが、大輔の父=天羽大二の、最後に確認された姿となった。

*

既にラーメン鉢も餃子もチャーハンも片付いた後で、店内にはスープの残り香と仄かなニンニクの匂いだけが陽気さを寂しく残す。

「…後で分かったんだけど、父ちゃん、新しい職場で馴染めなくてずっと悩んでおったと。生徒の指導方針でずーーっと教頭や学年主任の意地悪にいびられて、生徒庇うばっかしてた父ちゃんが気に入らなかったみたいで、今で言うとこのパワハラにあっとったらしか。その上、担当してた学級も札付きの子ばっかりでいっつも警察の世話になってて、生徒と学校の板挟みよ。きつかったとやろね…。でも、ウチが厳しかこつなっとったんで、ずっと一人で抱え込んでしもうて、終いにはおらんくなってしもうた」
「その後で、ウチのお父さんに反抗ばっかりしてた担任クラスの不良が大挙してウチに来て、土下座してすんませんすんませんって泣いて帰っていったっけ。自分たちのせいだって思ったんだろうけど、それって父さん慕われてたって思っていいのかなーって、ちょっとウルっとしたね」

温くなった冷や水を一口含んで、晶が「手がかりは」と問う。女将だけでなく、娘のハナも首を左右に振る。

「色んなとこ探してもらったけど、結局何も見つからなかった。
お父さんの実家は鹿児島だけど、お父さんのお兄さん…伯父さんは『死んではいない』とだけ言ってる。まじないが出来る家らしいんだけど、祈祷するにも伯父さんもおじいさんもそういう力あんまり受け継いでないからそれくらいしかわかんないって。間の悪い話、ウチのお父さんがびっくりするほどスジが良かったらしいんだけどね。その本人が神隠しなんて意味ないっていうか」
「まあ、その分ダイは勘がよか子だけん、もしかしたらと思ってたけど、やっぱりダメかもしらんね」
「と、言うと?」
敦の問いに、女将は「上京」と答える。

「あの子がわざわざ九州から出て進学決めたのは、お父さん探すためったい」

「ええっ!?」
「そうだったんですか!?」
驚く四人に、女将もハナも真剣に頷く。

「あの子が大学受験する半年前やったとか。鹿児島の伯父さんが、東京の池袋や秋葉原で父ちゃんによく似た人が補導員やってたって噂聞いたって」
「それで、ずっと迷ってた進学先を東京の瀬賀大にしたんだって。瀬賀大はお父さんの母校だし、あいつにも似合うかなと思うし。で、繁華街探すついでにゲーセン出入りしてたらクイズでいっぱしの有名人になったぽいじゃない?ゲームとはいえそこまではまるとか、あいつらしいね」
「そういう訳だけん、もし似た人見かけたらあの子に教えてやってあげてな」

「…はい、分かりました。気をつけておきます」
「そんな親孝行な面が大輔にあったとはな…」
神妙な庵の横で思わず感じ入る夏彦に、ハナは力無く笑いながらいいのいいのと顔の前で掌をひらひらと振ってみせる。

「そんな、しんみりしなくたっていいよ。あいつも一時ベジータだったし」
「ベジータ?」
「うん、ベジータ。あのサイヤ人みたいな強烈な剃り込み入れてそこらへんブイブイ走り回ってた時期があんのよあれにも。今は硬派気取ってるけど、きっちり警察のお世話にもなったし若気の至りも経験してるし」
「見かねた伯父さんが鹿児島へ引っ張っていって、どうにか更正してくれてホントに良かったばい」
あの頃は手がつけられんかったからねー、と女将さんがしみじみ語り始めたその時、「おい」と野太い声と共に店の玄関ががらりと開いた。

「ああ、お帰り大輔。彼は?」
「…先に帰るって。つか何あれ何よ姉ちゃん。いきなり結婚の話されたんだけど。俺ひとっつも聞いてないぞ?」
明らかにふてくされた面持ちの弟・大輔に、姉のハナはしたり顔でにんまりと笑い返す。
「別にあんたが結婚する訳じゃないんだし。で、日取りとかちゃんと聞いた?教育実習中になるかもだけど、予定空けといてよ」
「あーはいはい。言われなくても熨斗包んで持って帰るから。あんな奴でないと、がさつな姉ちゃんだったら結婚の当てないだろうし」
「はいはいひがみ乙乙。ちゃんとアイス買ってきてくれたんでしょうねー?後、失礼なこと言わなかった?仮にもあんたの義兄さんになる人なんだから」
「分かってるって」
どことなくムカムカと大股で、両手一杯の荷物抱えて戻ってきた大輔に、母と姉だけでなく口元が波打っている四人の視線も集まる。
「?…どうした庵、俺の顔に何かついてるか?」
「えええっ?いやいや別にー」
そのあからさまに怪しい態度で察したのか、「またかよ」と大輔は更に不機嫌そうに眉をひそめた。
「どうせオカンだろ?また要らない事しゃべくって…ちょ、おまえら何そのニヤニヤ顔。おいちょっとオカン!何言ったんだよ!」
「別に?なんちゃない話しかしとらんと」
「ほんのベジータだし」
「それかよ!あああもうよりにもよって!!言うなってことばっかダチに吹き込むなっての!!」
もうこれだから帰りたくなかったんだー、と大袈裟に頭を抱えてみせる大輔に一同からも笑いが起こる。

その中で一人、庵は「幸せだな」と微笑ましい大輔の家族を横目に、しんみりと溶けきった氷水を飲み干した。

【8月9日・今日は大輔宅で一泊・デザートはアイス・続く】












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