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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

カステラと異国情緒の街へ。
*

八月九日は、長崎にとっての特別な日である。

十日正午過ぎに長崎入りした庵たちが目にした街の風景は、普段と変わらない、だがどこか静かな人々の気配。
見えなくなろうとも消えない何かを、忘れえぬ場所。
街の静けさは、祈りそのもののようであった。

前日の電話に「午後からなら」と長崎入りを承諾してくれた杏奈だが、本当は迷惑だったのではなかろうか。
もう翌日夜には大輔の先輩達と会うためクイズ大会会場の遊園地=ハウス・ネーデルランド・テンボスへ向かわなければならない。杏奈はお盆の後にすぐ上京して後期授業の準備に入るそうで、今日を逃すと異国情緒たっぷりの長崎デートプランがおじゃんになる可能性大なのである。
それはまずい、と心中思っている約二名の心情に合わせての押しかけ道中であったが、その当人達も複雑な思いと再会への淡い期待を入り交じらせて、車は長崎駅へと向かった。

*

午後二時前。
長崎駅前着。
三叉に別れた駅前の国道を進むと、横手には長崎電停の駅と市電の姿も。
「おおっ」と横になっていた敦も身体を起こし細い目を細める。
博多駅も大きな駅舎であったが、長崎駅は三本の歩道橋と駅前駐車場上の高架橋広場で連結されているため、駅舎の開放的なドーム屋根と相まって大きさを感じさせる作りになっていた。
車道からもよく見えるドーム屋根が広がる長崎駅前カモメ広場下には、客待ちの赤いタクシーが列をなしている。

「長崎駅」の標識横には「長崎びわ」なる広告。
車内からは「へー」のトリビア声。

その脇にするするっと車を横付けすると、広場から大きな荷物を抱えた三つの人影が小走りに駆け寄ってきた。

「あっ!!」
「あれはっ!」

全員が車窓を開くと同時に人影に手を振る。

「お久しぶりです!」
白いワンピースとレースのショール姿で現れた杏奈の姿に、野郎全員歓喜。
手に持った日傘を折りたたむと、「すぐに分かりました」と車窓から顔を乗り出す庵ににっこりと微笑む。

「杏奈さんおひさしぶりです」
「すみません、押しかけてしまって」
堅苦しくひきつった表情で助手席の窓を開く大輔と、庵の脇から無理強いに顔を覗かせる晶にも、杏奈「いいえ、大丈夫ですよ」にっこりと笑顔。
と、その背後にどこかで見たような女性が二人。

背格好と見た目からして同世代。
一人は鶏ガラのようにほっそりとした、痩せ気味の小柄な女性。
キツネ目で童女のような幼い印象を受ける。
かたやもう一人はというと、ぴちぴちなピンクのTシャツが印象的な、どっしりアンコ型の超重量ふとっちょ娘。
くりくり眼、寸胴な上に真っ黒なおかっぱ頭のためにまるで平成版女金太郎のような風格である。
正直な話、清楚を地でいく杏奈が浮いて見える取り合わせなのだが。

と、その時。
「あっ!」と金太郎娘を見て庵が大声を上げる。

「アケボノじゃん!」
「あらっ」と、金太郎娘も一瞬にして頬を染めて「覚えてたの!?」と嬉しそうに相好を崩す。

「うっわー久しぶり!記念大会以来だけど、お前相変わらず太いな!」
「あらやだご挨拶ねアンアン!久しぶりのご対面でそれはなくない?あたしはダイエットなんてする気ないからね。漫画家志望が連日のデスクワークで痩せる訳ないし。その代わり、早押しスピードは昔の比じゃないから~」
「おおっと楽しみな事言うじゃ~ん?昔みたいに返り討ちにしてやんよ( ´ω`)」

「ちょっと庵ゴメン…誰?」
話を遮ってひそひそと耳打ちする晶に、金太郎娘=アケボノは「あらやっぱりそっちは覚えてないのぉ」と、コミカルに不満顔をしてみせる。

「曙だよ、曙陽子。
アカデミッククイズ記念大会の時、杏奈さんと一緒に出場してた、やたら早押しが強かった奴。もう一人は鳥海さんだろ?」
「ああっ!」と晶が思い出して合点がいった脇で、杏奈とアケボノの背後に隠れていた女性=鳥海が「忘れられてなかった~」と嬉しそうにはにかむ。
「杏奈ちゃんの言ってた通りだ、本当に覚えてるんだね~!私なんか影薄いから絶対覚えてないと思ってたのに」
感激しきりの鶏ガラ娘=鳥海に、「もちろんじゃん」と庵は当然と言いたげに笑い返す。

「二人とも、皆さんに会いたいとの事だったので一緒に来たんです。昔の話とか、クイズ大会の事とか、つもる話もありますしまずはどこかへ移動しませんか?」
「まずはウチの中華料理店で腹ごなしすると良いわ。案内するから、中華街へ車回してくださる?ちゃんぽんがお待ちかねよ」
「アケボノナイス!超ナイス!」
「よっしゃ、じゃあ乗ってくれ!」
メシの予感に運転席の夏彦がいい笑顔を見せた所で、女性陣三人が乗り込むと瞬く間に車内はすし詰め状態に。特に最後部座席はどすこいな曙女史が1.5人前を占めているため敦隣席で涙目である。

「ヒゲ先輩、これ何人乗り?」
「七人が上限だが気にするな」
「うわっ、言い切った(笑)」
「それは大丈夫よお、夕方には九州のお兄さんたちが車でやってくるそうだから!そっちに乗せてもらうからねー」
「…九州のお兄さんたち?」
問われて、曙はしれっと「チーム桜島の人たち」と答える。それを聞いて、大輔は開口一番「何で知ってるんだ?」と声を張り上げる。
チーム桜島=大輔のチームメイトであり、テンボスで会う予定の大輔の先輩・小野田たちであろうが、一体この三人に何の用があるというのか。

「何でって」「ねえ」「だって」

そちらこそ何で知らないのかしら、と言いたげな女性陣に問い返そうとすると、背後からタクシーのパッシング音が。
「おっとすまねえ、車出すぞ!」

【8月10日昼・今日も真夏日・晶と大輔にもサマーデイズな予感が・続く】












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