対峙。
*
室内は濃緑色の月光で満たされていた。
横に目を向けると、倒れた黒服の男達。
仰向けになって倒れている者は、皆白目を剥いて気絶し「あー」とか「うぅ」と呻いている。
典型的な、無気力症の症状だ。
壁に整列されたように並べられた十名程度の屈強な男達が横たわる部屋の中央で、一際大きな影が月光に照らされ揺らめいている。
黒い喪服の下に盛り上がった筋肉をまとう男。
その身体は、180センチ以上の俺の身体を優に超える身の丈で、筋肉で盛り上がった背中には、無数の棺桶を背負っていた。
「久しぶりだな、死神」
朝の挨拶のようにごく自然に声をかけた俺を一瞥して、死神の影は嫌悪の色を仮面の下に現す。
『お前は…あの時のペルソナ使い…』
「覚えていたか」
嬉しいぜ、と呟くと、死神は頭を下げ体勢を低くし、俺の動向を警戒する。
その逞しい腕の中に、雛鳥のように大事に抱えられた、死神の「母体」が眠っていた。
『そうか…こいつらと結託して、フタバをまた人形にするつもりだったんだね…つくづく、最低な連中だ』
「勘違いするな。むしろ逆だ。俺はお前らに用があっただけで、お前らを支配するなんざ無理だとハナから分かっていた。だが、そこの阿呆は事の顛末を見せておかないと納得しないような神経質なタチでな」
「ど……どういう事だ!!説明しろ!」
ドアの向こうでこちらの様子を怖々覗いている幾月が吠える。
俺の口から、自然にため息が漏れた。
「…簡単な話だ。『エウリュディケ』は、日向二葉以外の人間には効かなかったんだよ。
日向は他のペルソナ使いの子供達に二葉と同様の実験を行い、全員ペルソナの暴走で死亡していた。
確かに、『エウリュディケ』はペルソナの能力に強く作用するが、その力は強すぎた。
完成したものの、波動の与える効力が強すぎて、普通のペルソナ使いが何の心構えも無く聞くとペルソナの力をいたずらに増幅されて最後には暴走し、自滅する。洗脳以前に、力の増幅が予想以上のレベルで起こり、被験者の自我が力の急激な上昇と洗脳用のプログラム、双方の力に耐えきれず崩壊してしまうんだ」
「なっ……なんだとっ!」
「だから、俺はあれを聞く時はペルソナ能力を封印してから聞く事にしている。さっきの数分間の再生でも腹の中がじりじりして仕方なかったが、何とか堪えられた。早めに覚醒してくれて良かったよ」
「嘘だ…なら、ならば何故成瀬双葉は暴走した!!」
興奮したせいか、幾月は怒気を露わにして室内に一歩、足を踏み入れ俺の背中に叫ぶ。
「阿呆が。今、答えを言ったはずだ」
「はあ?」
「言ったろうが。『エウリュディケ』の効力が有効なのは日向二葉だ、と。
ここにいるのは誰だ?
俺のダチの養子、名前は成瀬双葉…別人だ」
「そんな…名前が変わっただけで何が変わっていると言うのです!?」
「大変わりだよ。…『エウリュディケ』を、あたかも完成した洗脳プログラムに見せていたもの。
…それは、日向二葉の、親からの愛情の渇望だったのだよ」
「愛情の、渇望?」
幾月が間の抜けた声を背後で出す間に、俺はぽつぽつと、今まで沈黙し続けていた結論を胸に口を開いた。
室内は濃緑色の月光で満たされていた。
横に目を向けると、倒れた黒服の男達。
仰向けになって倒れている者は、皆白目を剥いて気絶し「あー」とか「うぅ」と呻いている。
典型的な、無気力症の症状だ。
壁に整列されたように並べられた十名程度の屈強な男達が横たわる部屋の中央で、一際大きな影が月光に照らされ揺らめいている。
黒い喪服の下に盛り上がった筋肉をまとう男。
その身体は、180センチ以上の俺の身体を優に超える身の丈で、筋肉で盛り上がった背中には、無数の棺桶を背負っていた。
「久しぶりだな、死神」
朝の挨拶のようにごく自然に声をかけた俺を一瞥して、死神の影は嫌悪の色を仮面の下に現す。
『お前は…あの時のペルソナ使い…』
「覚えていたか」
嬉しいぜ、と呟くと、死神は頭を下げ体勢を低くし、俺の動向を警戒する。
その逞しい腕の中に、雛鳥のように大事に抱えられた、死神の「母体」が眠っていた。
『そうか…こいつらと結託して、フタバをまた人形にするつもりだったんだね…つくづく、最低な連中だ』
「勘違いするな。むしろ逆だ。俺はお前らに用があっただけで、お前らを支配するなんざ無理だとハナから分かっていた。だが、そこの阿呆は事の顛末を見せておかないと納得しないような神経質なタチでな」
「ど……どういう事だ!!説明しろ!」
ドアの向こうでこちらの様子を怖々覗いている幾月が吠える。
俺の口から、自然にため息が漏れた。
「…簡単な話だ。『エウリュディケ』は、日向二葉以外の人間には効かなかったんだよ。
日向は他のペルソナ使いの子供達に二葉と同様の実験を行い、全員ペルソナの暴走で死亡していた。
確かに、『エウリュディケ』はペルソナの能力に強く作用するが、その力は強すぎた。
完成したものの、波動の与える効力が強すぎて、普通のペルソナ使いが何の心構えも無く聞くとペルソナの力をいたずらに増幅されて最後には暴走し、自滅する。洗脳以前に、力の増幅が予想以上のレベルで起こり、被験者の自我が力の急激な上昇と洗脳用のプログラム、双方の力に耐えきれず崩壊してしまうんだ」
「なっ……なんだとっ!」
「だから、俺はあれを聞く時はペルソナ能力を封印してから聞く事にしている。さっきの数分間の再生でも腹の中がじりじりして仕方なかったが、何とか堪えられた。早めに覚醒してくれて良かったよ」
「嘘だ…なら、ならば何故成瀬双葉は暴走した!!」
興奮したせいか、幾月は怒気を露わにして室内に一歩、足を踏み入れ俺の背中に叫ぶ。
「阿呆が。今、答えを言ったはずだ」
「はあ?」
「言ったろうが。『エウリュディケ』の効力が有効なのは日向二葉だ、と。
ここにいるのは誰だ?
俺のダチの養子、名前は成瀬双葉…別人だ」
「そんな…名前が変わっただけで何が変わっていると言うのです!?」
「大変わりだよ。…『エウリュディケ』を、あたかも完成した洗脳プログラムに見せていたもの。
…それは、日向二葉の、親からの愛情の渇望だったのだよ」
「愛情の、渇望?」
幾月が間の抜けた声を背後で出す間に、俺はぽつぽつと、今まで沈黙し続けていた結論を胸に口を開いた。
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