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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

花の香りと芳醇な香り。
*

ふと気になり、晶は一階ラウンジに降りていくと庵の姿を探した。
館内は既に夜間照明に切り替わっており、受付は無人、ロビー全体が閑散とした静けさの中にあった。

「庵さんをお探しなんですか?」
背後からの不意討ちに晶が飛び退くと、声の主はふふふ、と柔和に微笑んだ。

「杏奈さん」
一体どうしたんですか、と訊ねると、きっと同じ事だと思いますよと優しく返される。

「庵さんに、負担かかりすぎてるんじゃないかと思いまして…」
「ああ…それなら、同じですね」
ちょっとそこへ、とロビーの待合所へと誘う。
豪奢な錦糸の蔦が編まれたソファで向かい合うと、杏奈は自然と伏し目がちに俯いた。

「多分、今頃別室で意見を取り交わしてる最中なんでしょうね…ごめんなさい、私のせいで皆さんまで巻き込んでしまう結果になってしまって」
「いえいえ、そんな!僕たち全員、クイズ大好きですしその、困ってる人は放っておけないタチですから」
「有り難うございます。
…それでも、やはり申し訳なくて…私、何でかいつもこうなるんです。
自分が予想していなかった方へ方へと話がいつの間にか膨らんでしまって、気がついたら周囲に迷惑ばかりかけてしまって。それで高校時代は人に気を遣ってばかりいたから、曙ちゃんと鳥海さん以外には素直に接する事も出来ず窮屈な思いばかりで…だから、大学に入ったら本当に好きなことばっかりして過ごしたいなーって思ってたら、こんな大事に巻き込まれてしまって。私、どうしてこうなのかなーって、ちょっと落ち込んでます」
「それは杏奈さんが優しいからですよ。普通は、いきなり轟々と勝手に仕事を押しつけられても怒ってはねつけてしまえば終わりです。けど、杏奈さんは多分、アイアイの事を気遣って断れなかったんでしょう?だったら、それは気にすべきことじゃない」
「それもありますけど、私、優柔不断って言うか、八方美人なのかも。人に良く思われたいんです」

臆病だから、とぼそりと付け加えて、杏奈は力無く肩を落とす。

「藍子ちゃんは、真面目だけどまだ自分を中心にしか物事が見えないんだと思います。だから、それで足をすくわれなければいいのですけど」
「ほらやっぱり。今もアイアイの心配をしてる。杏奈さんは優しすぎるんですって。それは美点であって欠点じゃありませんよ」

ね、と晶は杏奈の手を取ってぎゅっ、と強く握りしめる。
あ、と杏奈の頬が染まるのを見て取って、晶は内心「いよっし!」とガッツポーズを決めるも表向きはキリッと口元を引き締める。

「庵は忙しそうだし、また何か不安があったら言ってください。僕で良ければいつでも相談に乗りますし、庵への言づても伺いますから」
卑怯な言い分だなと思いつつ、庵をダシに好感度を上げる作戦を使ってみると予想以上にヒットだったらしい。
杏奈の顔元にはっきりと好意の相が浮かび、表情が柔和さを帯びた。

「ほ、本当ですか…では、有り難うございました、と伝えておいてください。あと」
「あと?」
手を握られたまま恥じらいながら微笑む彼女に、ハッと息を飲む。間近で見る杏奈の、なんと美しい事だろう。
つぶらな黒目がちの瞳、上品な口元、白い透けるような肌。それを内包して包む真珠の如き高貴さは、当人の品格としか形容し得ない。
このままもっと密着したくなる衝動を抑え、そっと握る手に力を込める。
知らず晶も己の頬が紅潮してくるのが分かって動揺する。

やはり、彼女は今まで出会った誰とも違う。
本当の、美女と呼ばれるに相応しい令嬢だ。
そう思うと今までになく緊張が全身を硬直させる。
そんな晶の心中を知ってか知らずか、艶やかな口元が弧を描いて動く。

「晶さん、有り難うございました。ちょっと、気持ちがホッとしました…」
「いえいえ、僕で良ければ幾らでも」
その後しばらく歓談の後互いの部屋に戻るも、晶はふわふわとした奇妙な高揚感に囚われたままであった。

彼女は。
彼女は。
彼女は本当に存在してるんだろうか。
天女というか聖母というか。現実味のない感じだ。

どうしよう。

妙な言葉ばかりを脳内に並べて誤魔化しても、自分の動揺は自分が一番よく分かっている。
だからこそ、恥ずかしいやら情けないやら。

今までは友達ライクで女の子とつきあい始めてばかりだった自分が、多分初めて…本気惚れしかかってるんじゃないのかこれは。

どうしよう。今もの凄く、僕は間抜けな顔してるんじゃないだろうか。
一ヶ月前の庵が、ののちゃんの隣で見せてたようないじらしくも見え見えな惚れ男の相を。

…恥ずかしいなそれ。

もしかして、ちょっと前からそうだったのかなーと、羞恥心で足取り重くしつつあてがわれたツインルームに戻るとノックを数回。

「おうっ」と中から返事と同時にドアが開く。
…と、そこには見慣れぬ人影が。

「お邪魔してるぜ!」
いよーう、と陽気な地黒のヒゲ男。
年齢はおそらく少し上程度の働き盛り。
自分よりも背が高く筋肉もがっちりとしており、見事に蓄えたあごヒゲの上でくりくりと大きな目と鼻が動く。
ドア越しに覗く手には焼酎の酒瓶。
Tシャツには…鹿児島万歳、と書かれた筆文字がでかでかと躍る。

「あ、あなたは…」
「おおっと、忘れたか?俺はお前さんらが初出場だった大会でラムサールの主将やってたんだぜ?」
「じゃあやっぱり!」
車内で大輔さんたちに聞きました、と答えると中から「戻ってきたあああああ」と歓声が上がる。
…どうやら、中は既に出来上がっているらしい。

鹿児島ヒゲの口だけでなく、既に室内全体が酒臭い、いや焼酎臭いのだが…。

「久しぶり、と言わせてもらうぜ。俺がチーム桜島主将、小野田だ。CNは『オレゴン』。これの由来はお察しだと有難いが」
酒瓶を脇に挟むと、小野田に握手を求められ素直に応じる。その掌の分厚さは、男らしさと当人の気概を感じさせる熱さがあった。

「ええ、確かその僕たちが初参加した大会で間違えた」
「そうそう!俺はあれで金輪際ロッキー山脈とオレゴン山脈を間違うことはなくなったんだぜ…あれさえなかったらもう少しマシな戦績残せただろうに、残念だった…と、積もる話もあるし中入って入って」

ここ確か僕たちアーサー大の三人があてがわれた部屋だったよなと疑問に思いつつ入室し扉をロックすると中から「おかえりーー」「おっおっおかいいりりい-----」と、酒まみれの怒号のような野郎共の「お帰りコール」の出迎えを受けた。

見ると室内には自分と敦と夏彦、そして大輔以外に六人。
どうやら自分が出ていた間にチーム桜島メンバー全員で熱烈歓迎にやってきていたようである。見れば敦は大人しくジンジャエールを宛がわれてツマミのイカ足を口に入れているが、夏彦は既に顔を真っ赤にしてベッドにダウンしている。

まず一人、二日酔いの出来上がりとは。
いったいどれだけ飲まされたのであろうかと早くも頭痛がしてくる。

「いよおおうう、お帰りあきらああああああ」

…大輔も既に出来上がっているようである。

「あの、安藤先輩…」
「あー、二階堂コップ一杯で潰れた。魔王や黒霧島開ける前からああなっちまうとは、情けねえったら!」
「先輩、おいたわしや…」
見れば、敦が真っ青な顔でしくしくイカ足を噛み締めてうるうるしている。幸い一滴も飲まされてはいないようだが、怯え半分泣き笑い半分な表情からやや気分は高揚しているのを見て取れるのが可笑しい。雰囲気で酔ってるのか。
お水飲んでバタンキューしたんですよー、と不安げな敦に床に転がるミネラルウォーターのボトルを手渡すと、空いたベッドの縁にどかっと座り込む。

「大輔さん、顔真っ赤ですよ」
「ああ平気だ。焼酎しか飲んでねえから。チャンポンしなけりゃ明日も明後日も平気だ!」
「いやそういう問題じゃなくって…いきなり酒盛り始めないでくださいよ。ここ一応高級ホテルなんですし」
「構うかよっ!ここ防音設備バッチリらしいから幾ら騒いでも平気のへいざよ。飲まなきゃやってられっかこんなクソな状況わよぉ」
呂律が怪しいが、既に皆顔面を真っ赤にして大輔の怒声に「そうだあああ」「おっかしーよなーー!」とどんちゃん騒ぎである。

「まあね、今日は勝負の事はさておき、一杯やろうぜ晶!今日は親睦会、明後日…いや明日になるのかな?まあいい。明後日は決戦!正々堂々と決勝でやりあおうぜっつうことで」
「もう決勝行った気満々なんですか?おめでたすぎやしません?」
どこから持参したのか紙コップを受け取りひとまず敦のジンジャエールを分けてもらうと、ちくりと一言。
すると大輔も桜島の面々もしれっと「いや決勝までは余裕」と断言しきる。

「ぜってえ俺は負けねえよ。お前にも、誰にもな」

その瞬間だけ、大輔が普段のような剛毅な物言いに戻ったのを感じて、晶は逆に素面ながら酔いが冷めるような思いでいた。

そうだ、今回は僕の勝負なんじゃないか。
庵にも頼らず、みんなのためでもなく、僕の、自分のため…。
大輔も察して、「さっさとコップを空にしな」と焼酎の瓶を振って催促する。

「いいですよ。僕こないだ成人したばかりですから。飲ませていただきましょうか」
「良い答えだ!すなわちナイス返答!さっ、ぐっといっちまおうぜ!」

言われるがまま、ジンジャエールを飲み干してカップを差し出すと、そのままぐだぐだと焼酎の匂いに飲まれていく。
芋・麦・そしてイカ足と酒臭い汗の臭いにまみれ、その日の晩はオールナイトで朝までげらげら笑いながらクイズのよもやま話を余す事無く語り尽くした。

【8月11日深夜・酒盛りナイトフィーバー・続く】












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