天才の主観。
*
第一試合:早押しクイズ
サツマ(大輔)×アンアン(庵)
○=正解 ×=不正解 ー=解答できず(回答権を奪取される)
第一問 ○:ー
第二問 ー:○
第三問 ○:ー
第四問 ×:○
第五問 ○:×
第六問 ー:○
第七問 ー:○
ほとんど見ずに押してるんじゃないかと思われるような、問題文一行目での高速押しは続く。
それでも、両者の解答までたどりつく道筋には決定的に違いがある。
庵は、蓄積している問題数が多ければ多いほど有利な、自身の超記憶を用いた「ライブラリ」による「自動検索」で導き出している。
対して、大輔も同じく長い間プレイし続けた経験と実績の中で積み上げた問題の凡例と分岐を復習も押さえてしっかり覚えているので、そこから振り分けているのだが、若干勝手が異なる。
例えば、自然科学の問題で「青い~」と来たら、まず押す。
押してもボタンを押した際に発生するタイムラグで、続けて問題文の数文字は勢いで表示されていく。そこの見切りを数多く問題を解く事でまず蓄積し、選択肢に繋がるキーワードとして覚え、かつ多岐に渡る選択肢の中から振り分けていく。
大輔は、ジャンル+問題文が出た瞬間に見切りポイントを読んで押し込む。考えて見切っている。
が、庵はといえばもはや反射的に押しているのである。
問題文が表示された瞬間に、選択肢を用意した状態になっており、考えるよりも脳の「押せ」という命令だけを受け取って後から考えているような状態で答えている。それで答えられるのは、ひとえに彼が有する「ライブラリ」の「視える」能力の賜物であった。
数式と同じで、見たら答えが浮かぶのである。
この問題は見た事がある。○月×日の14時26分から○○というゲーセンで押していた時。左から二台目、右斜め上に傾いた取説収納ケースがくっついていてやりにくかった台だ。取説の枚数は六枚。内前から二枚はめくれていた。保存状態に難あり。台自体も画面が若干黄ばんでいたが問題ないレベル。喫煙可のゲーセンだったので仕方ない。だが、前の客が吸っていたであろう煙草の吸い殻が三本も残っていた。銘柄はマルボロ。根元まで吸っていない。口紅の跡であろうグロスのてかりとピンクの吸い跡が残っている。女性、しかもケチな性分で化粧品自体には金をかけていない印象。着色の仕方が百均にあるグロスの試し塗り台と同じ色。見覚えがある。全国共通の百均ブランドだから、廉価品か有名ブランドの模倣コピーの品だろう。確か、百均で確認したブランド名で答えるならメルシイ・中国産でボトル総量は32グラム。エンジ色のフタ、カラーコードはリキッドピンク。大学町前の百均で見つけた時には台に八個、同ブランドの五色全てのボトル総数は四十八個あった。オススメと書かれたPOPの下にも、試し塗りのピンク色した筋が四本入っていた。一応売れ筋なのだろうか。値段からして使用者はきっと学生かアルバイト。学生なら、不良になるのか。台自体の環境はいいのに掃除のし忘れは惜しい。ボタンがキチンと整備されていてスプリングの感触がほどよい設定になっていた。押し抜けもなかった。
ところでこれとよく似た出題で、▲月△日18時06分から○○××で押していた事もあったがあの時は「~ですが、」で当人の名称ではなく当人が設立した会社名を答えさせられた。文面から察するに「☆☆を作った人物~」とくれば人名だが、「☆☆を創設した~」と来れば会社名を解答させられる。が、これはそもそも一行目五文字から「アメリカで~」と「アメリカ人~」と変化するため見分ける事が可能である。よってここで押せばいい。あの日の台は右隅の一台目で200円3クレジットだった。台の上に邪魔なものは一切なかったのに画面上部の「常時200円で3回サービス!」の文字がけばけばしく目にやさしくなかった。赤と黄色の警戒色であるのに加えてダイナフォントPOP体で非常にカクカクしい目がちらつく仕様で気になって仕方なかった。まあそう大した支障はなかったからゲーム自体は問題なくプレイできた。ボタンの感触は普通。しかし、ややべとついていて押し込むと不愉快。お陰でおしぼりを三枚も使ってしまった。試合結果のリプレイ時にカウンターへ取りに行ったが、総数は二十八枚。中ほど十三枚目から三枚抜き取った。おしぼりは平面で表側にゲーセンの名前。ストライプは六本。裏は無地でおしぼりの注意書きが一行・※高温多湿をさけてご使用下さい。おしぼりにも高温多湿が天敵とは知らなかった。色はシアン単色の水色と白地ナイロン。向かいのサービスカウンター側へは目視だけで十二枚置かれていた。それに…。
延々と続く、とめどない記憶の「答えへ通じる映像」が脳内を高速で駆け抜けていく。予測変換など相手にならない、十倍速の映像を音声付きで流し見て全てを把握しているような状態。当人はもはや慣れている感覚なので意識していないが、それを選別し振り分けていたら、いつの間にか答えが出ているのである。
リンゴについて詳細を、と問われたら、何時間くらいしゃべっていられるだろう。
品種や成り立ち、リンゴの栽培方法から伝承、調理方法に至るまでの範囲でどれくらい喋り尽くしたらいいのだろう。そんな事を時々思うが、要は自分の方が圧倒的に、一つの事象から引き出す情報量が多いのである。
便利そうだが、これは割としんどい。
一つのキーワードだけでも、検索し尽くした後に残るのは相当量の負荷がもたらす疲労と減退感、そして申し訳程度の満足感と安心。
割りに合わないと分かっているくせに。
しかし、勝負で負けるのは嫌いだ。とても嫌いだ。
だから。全力で思い出す。でもって瞬時により分ける。
これがクイズ脳と言われるんだろうな…と思いつつも。
ならば、回答権だけ先にキープしておかなければ。
…もちろん例外はある。問いに対する解答、が脳内へインプットされていない=初見で、なおかつ今まで蓄えた知識でも解答が導き出せなかった場合のみ、彼は沈黙する。
なので、×がつくのも庵としては何ら可笑しくない現象なのだが、周囲には「あの天才が珍しく!」と映るのである。
可笑しな話だ。自分だって完璧じゃないのにな。そんな事を、最近はよく思う。
だけど、それよりも。
今目の前でそれくらい競える相手が現れた事が純粋に嬉しい。
やはり、知識は披露してなんぼだし、どこかで使う機会がないとわびしい。
自己満足では、もはや満足出来ない自分。だが、力の差がある相手との戦いも虚しい。
九州来て良かったじゃん。
テレビ出演していた頃、唯一の楽しみはやはり回答台に着席することだった。
そこには対戦相手がいた。自分の実力と能力を知ってなお挑んでくる相手が。
そんな気合いと自負のこもった相手と、向かい合って互いの知性のみを武器とし鍔迫り合いを繰り広げる快感。
最初の頃こそほめてもらえる事も嬉しかったが、末期にはクイズ以外読書するしか楽しみがなかった。
他人は自分を知ると最初驚き、次に喜び、そして全てを知ろうとする。
だが、みな自分を知り尽くす事は出来ないといずれ悟る。
何故って。…自分でも、自分の果てが分からないというのに。
そして、俺という存在と能力の全てが、他者に理解・習得出来る代物ではないと分かり、また能力の発露や現象の全てを把握・習熟し納得出来る存在でないと知れるや、去るか、もしくは畏怖と警戒と、人によっては穢れの視線をもってこちらを遠巻きに眺めてなにがしかを呟き続けるのだ。
その内容はおおむね同じ。
お前はおかしいよ、と。
おかしいと言われても困惑するだけだ。
自分は、こんな風にしか生まれてこなかったのに。
母も父も普通だったのに、何故こうなったもんか。
他人のそうした視線は、どこから来るのかもう分かっている。
畏れ。
分からない問題に苛立ち、不安を感じるのと同じで、怖がられているだけなのだ。
それが分かっただけでもめっけもんだ。苦笑するほかないけど。
…いらない事を考えていたように思う。
集中しよう。どんな相手だろうと、やはり勝ちたい。
負けるのはしゃくだし、後々敗戦を思い出すのはイライラするし。
それに、まあ、ののちゃんに自慢したいし。…うん、俺も結構ワガママだよね。
そんな事を考えていたら、第一ラウンド終了。勝利。
でも、随分と時間を食ったように思う。
…良い勝負だ。久しぶりに、そんな予感が胸を熱くさせた。
【8月12日夕方・庵の思考回路は常時こんな感じ・そろそろクライマックス・続く】
第一試合:早押しクイズ
サツマ(大輔)×アンアン(庵)
○=正解 ×=不正解 ー=解答できず(回答権を奪取される)
第一問 ○:ー
第二問 ー:○
第三問 ○:ー
第四問 ×:○
第五問 ○:×
第六問 ー:○
第七問 ー:○
ほとんど見ずに押してるんじゃないかと思われるような、問題文一行目での高速押しは続く。
それでも、両者の解答までたどりつく道筋には決定的に違いがある。
庵は、蓄積している問題数が多ければ多いほど有利な、自身の超記憶を用いた「ライブラリ」による「自動検索」で導き出している。
対して、大輔も同じく長い間プレイし続けた経験と実績の中で積み上げた問題の凡例と分岐を復習も押さえてしっかり覚えているので、そこから振り分けているのだが、若干勝手が異なる。
例えば、自然科学の問題で「青い~」と来たら、まず押す。
押してもボタンを押した際に発生するタイムラグで、続けて問題文の数文字は勢いで表示されていく。そこの見切りを数多く問題を解く事でまず蓄積し、選択肢に繋がるキーワードとして覚え、かつ多岐に渡る選択肢の中から振り分けていく。
大輔は、ジャンル+問題文が出た瞬間に見切りポイントを読んで押し込む。考えて見切っている。
が、庵はといえばもはや反射的に押しているのである。
問題文が表示された瞬間に、選択肢を用意した状態になっており、考えるよりも脳の「押せ」という命令だけを受け取って後から考えているような状態で答えている。それで答えられるのは、ひとえに彼が有する「ライブラリ」の「視える」能力の賜物であった。
数式と同じで、見たら答えが浮かぶのである。
この問題は見た事がある。○月×日の14時26分から○○というゲーセンで押していた時。左から二台目、右斜め上に傾いた取説収納ケースがくっついていてやりにくかった台だ。取説の枚数は六枚。内前から二枚はめくれていた。保存状態に難あり。台自体も画面が若干黄ばんでいたが問題ないレベル。喫煙可のゲーセンだったので仕方ない。だが、前の客が吸っていたであろう煙草の吸い殻が三本も残っていた。銘柄はマルボロ。根元まで吸っていない。口紅の跡であろうグロスのてかりとピンクの吸い跡が残っている。女性、しかもケチな性分で化粧品自体には金をかけていない印象。着色の仕方が百均にあるグロスの試し塗り台と同じ色。見覚えがある。全国共通の百均ブランドだから、廉価品か有名ブランドの模倣コピーの品だろう。確か、百均で確認したブランド名で答えるならメルシイ・中国産でボトル総量は32グラム。エンジ色のフタ、カラーコードはリキッドピンク。大学町前の百均で見つけた時には台に八個、同ブランドの五色全てのボトル総数は四十八個あった。オススメと書かれたPOPの下にも、試し塗りのピンク色した筋が四本入っていた。一応売れ筋なのだろうか。値段からして使用者はきっと学生かアルバイト。学生なら、不良になるのか。台自体の環境はいいのに掃除のし忘れは惜しい。ボタンがキチンと整備されていてスプリングの感触がほどよい設定になっていた。押し抜けもなかった。
ところでこれとよく似た出題で、▲月△日18時06分から○○××で押していた事もあったがあの時は「~ですが、」で当人の名称ではなく当人が設立した会社名を答えさせられた。文面から察するに「☆☆を作った人物~」とくれば人名だが、「☆☆を創設した~」と来れば会社名を解答させられる。が、これはそもそも一行目五文字から「アメリカで~」と「アメリカ人~」と変化するため見分ける事が可能である。よってここで押せばいい。あの日の台は右隅の一台目で200円3クレジットだった。台の上に邪魔なものは一切なかったのに画面上部の「常時200円で3回サービス!」の文字がけばけばしく目にやさしくなかった。赤と黄色の警戒色であるのに加えてダイナフォントPOP体で非常にカクカクしい目がちらつく仕様で気になって仕方なかった。まあそう大した支障はなかったからゲーム自体は問題なくプレイできた。ボタンの感触は普通。しかし、ややべとついていて押し込むと不愉快。お陰でおしぼりを三枚も使ってしまった。試合結果のリプレイ時にカウンターへ取りに行ったが、総数は二十八枚。中ほど十三枚目から三枚抜き取った。おしぼりは平面で表側にゲーセンの名前。ストライプは六本。裏は無地でおしぼりの注意書きが一行・※高温多湿をさけてご使用下さい。おしぼりにも高温多湿が天敵とは知らなかった。色はシアン単色の水色と白地ナイロン。向かいのサービスカウンター側へは目視だけで十二枚置かれていた。それに…。
延々と続く、とめどない記憶の「答えへ通じる映像」が脳内を高速で駆け抜けていく。予測変換など相手にならない、十倍速の映像を音声付きで流し見て全てを把握しているような状態。当人はもはや慣れている感覚なので意識していないが、それを選別し振り分けていたら、いつの間にか答えが出ているのである。
リンゴについて詳細を、と問われたら、何時間くらいしゃべっていられるだろう。
品種や成り立ち、リンゴの栽培方法から伝承、調理方法に至るまでの範囲でどれくらい喋り尽くしたらいいのだろう。そんな事を時々思うが、要は自分の方が圧倒的に、一つの事象から引き出す情報量が多いのである。
便利そうだが、これは割としんどい。
一つのキーワードだけでも、検索し尽くした後に残るのは相当量の負荷がもたらす疲労と減退感、そして申し訳程度の満足感と安心。
割りに合わないと分かっているくせに。
しかし、勝負で負けるのは嫌いだ。とても嫌いだ。
だから。全力で思い出す。でもって瞬時により分ける。
これがクイズ脳と言われるんだろうな…と思いつつも。
ならば、回答権だけ先にキープしておかなければ。
…もちろん例外はある。問いに対する解答、が脳内へインプットされていない=初見で、なおかつ今まで蓄えた知識でも解答が導き出せなかった場合のみ、彼は沈黙する。
なので、×がつくのも庵としては何ら可笑しくない現象なのだが、周囲には「あの天才が珍しく!」と映るのである。
可笑しな話だ。自分だって完璧じゃないのにな。そんな事を、最近はよく思う。
だけど、それよりも。
今目の前でそれくらい競える相手が現れた事が純粋に嬉しい。
やはり、知識は披露してなんぼだし、どこかで使う機会がないとわびしい。
自己満足では、もはや満足出来ない自分。だが、力の差がある相手との戦いも虚しい。
九州来て良かったじゃん。
テレビ出演していた頃、唯一の楽しみはやはり回答台に着席することだった。
そこには対戦相手がいた。自分の実力と能力を知ってなお挑んでくる相手が。
そんな気合いと自負のこもった相手と、向かい合って互いの知性のみを武器とし鍔迫り合いを繰り広げる快感。
最初の頃こそほめてもらえる事も嬉しかったが、末期にはクイズ以外読書するしか楽しみがなかった。
他人は自分を知ると最初驚き、次に喜び、そして全てを知ろうとする。
だが、みな自分を知り尽くす事は出来ないといずれ悟る。
何故って。…自分でも、自分の果てが分からないというのに。
そして、俺という存在と能力の全てが、他者に理解・習得出来る代物ではないと分かり、また能力の発露や現象の全てを把握・習熟し納得出来る存在でないと知れるや、去るか、もしくは畏怖と警戒と、人によっては穢れの視線をもってこちらを遠巻きに眺めてなにがしかを呟き続けるのだ。
その内容はおおむね同じ。
お前はおかしいよ、と。
おかしいと言われても困惑するだけだ。
自分は、こんな風にしか生まれてこなかったのに。
母も父も普通だったのに、何故こうなったもんか。
他人のそうした視線は、どこから来るのかもう分かっている。
畏れ。
分からない問題に苛立ち、不安を感じるのと同じで、怖がられているだけなのだ。
それが分かっただけでもめっけもんだ。苦笑するほかないけど。
…いらない事を考えていたように思う。
集中しよう。どんな相手だろうと、やはり勝ちたい。
負けるのはしゃくだし、後々敗戦を思い出すのはイライラするし。
それに、まあ、ののちゃんに自慢したいし。…うん、俺も結構ワガママだよね。
そんな事を考えていたら、第一ラウンド終了。勝利。
でも、随分と時間を食ったように思う。
…良い勝負だ。久しぶりに、そんな予感が胸を熱くさせた。
【8月12日夕方・庵の思考回路は常時こんな感じ・そろそろクライマックス・続く】
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