飛び出せ糸目駆け出せ青春。
*
「くそっ、くそっくそっ、リア充爆発!爆発!科学戦隊に大爆発されてしまえばいいんだ!火薬の発破になって夏の夜空に舞い上がってしまえうわああああああん!!」
糸目は絶叫しながら構内を駆け回る。小脇にワンコを抱えたまま。
「くそおおおおお!もう人類は信じられません!かくなるうえは、このワンコと一緒に一生涯を過ごしてやるううううう!!」
現実逃避でしかない明後日へ向かっている発言だが、当の小脇にかかられているワンコにはクリーンヒットの威力があったようで、途端にガタガタと震え上がった。
が、糸目は気づく様子もない。
そして、追われているという自覚もない。
「糸目!糸目待て!」
はっ、とようやく一時的に我に返り振り返ると、クイズ研究会メンバープラスアルファが大挙して自分の背後を追いかけてくるではないか。
「み、皆さん…!?」
もしかして、僕のことが心配で…と一瞬期待したが、その夢はすぐに幻と消えた。
「糸目!それだ!そのワンコはデフォコのワンコだ!即座に返せ!そして戻ってこい!!」
「い…犬よりも用件が下!?僕よりもデフォ子さんのワンコの方が重要なんですね?うわああああああああん!もうぐれてやる!退部してやるうううう!!」
明日からリーゼントになってやります!と絶叫しながら猛ダッシュで逃げて行く糸目に(全員ワンコの安否が心配で)追いかけるものの、既に糸目に対してはドン引きまっしぐらである。
「順番とか重要か?」
「あれだよあれ、古式ゆかしい思考回路してるから、きっと一番にかまってほしかったんだよ~~。長男教っていうのかな~やだね鬱陶しいなあ~~」
「ツインテ先輩なにげに鬼女板じみた会話しないでくださいよ!何言ってるのか分からないっすけど、あいつの神経を逆なでしてるのはなんとなくわかりますよ!」
「ていうか、あいつ足早すぎるだろ!童顔で小柄なくせしてウサイン・ボルトレベルじゃねーのかよこれは!」
ショートさんの的確な指摘通り、糸目はぐんぐん後続を引き離していく。見かけからは想像もつかなかった俊足ぶりである。
「ふっふっふ、新潟の雪深い山野で育った僕はこれでも足腰に自信あり!ですからね!」
「ていうか、構ってちゃん行動はもう止せよ糸目!」
「そうだよ糸目、話しあおう!」
「後で、俺が行きつけの喫茶店でホットケーキおごってやるから!」
「デフォ男さんロン毛さんそして極めつけのヒゲ先輩方リア充軍団にそうやってもの申されてる僕の惨めさを考えろおおおうわあああああああああん!この無慈悲!無自覚!鈍感な皆さんなんか大嫌いですよおおおお!リア充爆発!リア充爆発!」
読経のごとく、リア充の爆発を願う糸目の目の前には正門、そしてそこからこちらへまっすぐ向かってくる人影が。
「あ、あら?何あれ…」
ええ?糸目君?と、目を丸くして人影は立ちすくんだ。
「あっ…貴女は!」
お久しぶりです!と途端に急ブレーキで人影の目の前に糸目が急停止して、しどろもどろにくねくねと身をよじる。
「久しぶり糸目君。どうしたの?何があったのかしら?」
人影…ショートの親友、セミロング姐さんが紙バッグを抱えてぽかんと立ち尽くしていた。
「い、いえっこちらこそお久しぶりです!えっとその今日のご用件は」
「ああ!ショートが資料一つ忘れたって言ってたから急いで持って来ただけよ♪」
ほらこれ、と紙バッグを見せると即座に「僕持ちますよ!」と糸目は手を差し出し…途端に、するりと小脇からワンコが機敏な動きで着地し後方へと駆け出した。
【続く】
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