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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

あの日から、今日まで。
*
「パーパ」

赤子がたった一言、俺に囁く。
パパ。
俺をそう呼んで、何の疑いも無く、まっすぐに黒い孔が俺を見上げている。

その目を見て、悟った。
俺が、何を思い、何を思いだしていたのか。


『これからはおじちゃん、じゃなくて』
『おとうさん』
『よし、上出来だ』


あの日交わした何気ない会話。
初めて「おとうさん」と、呼ばれたあの日。

未婚で、恋に破れ、挙げ句不倫までして、他人の家庭を壊してしまった俺が、一番望んでいたであろう呼ばれ方。
誰かの父親。
そこにあるはずの、暖かい家庭。
そして…。

「おとうさん」

不意に、背後から声がかかる。
振り返らなくても分かる。
ほぼ八年、側にいてくれたあいつの声。

「どうしたの。早く、やりなよ」
「何を、だ」
「その子を殺せば、おとうさんは楽になるんでしょ?さあ、早く」

背中に感じる視線で、あいつがまっすぐ俺を見つめているのが分かる。
それで、何となく分かった。

ああ、俺はまた、与えられていた。

「馬鹿言えよ。…大事な赤ちゃんなんじゃなかったのかい?」
「でも、おとうさんには重荷なだけでしょう?さっさと片付けて、自由になろうよ。ね?」

甘いおねだりの囁き声に、俺は苦笑する。
きっと、また間違えている。

だが、やはり俺は最後まで自分に嘘をつけなかった。

赤子の首に回していた指をほどく。
その指先で、そっと、赤子のあご元をさすり、あやす。
赤子は黒い顔を歪めて、心底嬉しそうに笑い声を上げた。
なんだ、結構愛嬌があるじゃないか。

「…どうして?どうしてなの」
「何がだ」
「何でその子を殺さないの?自由になりたくないの?楽になりたくないの?」
「なりたいさ。なんもかんも放り出して、荷物からっぽにして死にたいさ。でもな、それは出来ん」
「どうしてっ!!?」
「それは、今まで積み上げてきた、かけがえのない『絆』すら捨てる、そういう事だからさ」

興奮気味に背後でまくしたてていた「あいつ」は、急に言葉を失い押し黙る。

「…馬鹿だな俺。やっと、やっと気がついた。
俺は、もう少しでお前を失うところだった。
…俺、きっと心のどこかでお前を怖がってた。お前を畏れていた。心の底から愛したお前が、死神のせいで醜い化け物になるのが怖かった。
もしそうなったら、それは、百パーセント俺の責任だから…」

「あいつ」は黙ったまま、俺の言葉を聞き入っているようで、微動だにせず背後に立ちつくしている。

「…俺の大切だった誰か。両親は金だけを追って俺の目の前から消え失せ、ペルソナを通じて知り合った仲間とは結局俺の判断ミスでちりぢりになり、ほとんど死なせちまった。残った仲間の背負った不幸も、皆俺が引き金だ。やりきれなくて、合わせる顔もないはずなのに、未だに情に甘えて利用して…。お前の母ちゃんにしたってそうだ。俺にあの時もっと甲斐性があれば、借金なんてなんだって言って、無理矢理にでもプロポーズする勇気があったなら、身も心も磨り減らしてしまう前に救えたかもしれなかった。…でも、これは全部たらればだ。もうどうしようもねえ。だけど、たった一つ変えられるとするなら…」

振り返る。
立ち尽くした人影。
黒い猫っ毛、長い前髪。
アーモンド型の黒目がちな瞳。
幼さの残る童顔。
小柄な体型。
着慣れた黒いハイネックセーターとジーンズに白いソックス。
細っこい腕、足。きゃしゃな体つき。

あの人とそっくりな、世界で一番大切な子供。
双葉。
俺の、たった一人の家族。
たった一人の、息子。

「…たった一つ変えられるとするなら…俺は、お前に幸せを残してやりたい。とびきりの幸福を、死神とか、ペルソナとか関係なく、一人の人間としてお前に与えてやりたかった。本当の親子になって、赤ん坊の頃から馬鹿みたいに甘やかして、毎週遊園地やレジャーや観光に連れて行って、一緒にもっともっと思い出を作りたかった…。これは、ずっと現実から逃げ続けて、周囲に適当に合わせ続けて自分を晒そうとしなかった俺の望んだ世界。この赤ん坊はお前。そうだろ?双葉…」












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