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ゲーム二次創作中心ブログ。 更新まったり。作品ぼちぼち。

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蝶は微笑む。
*

「久方ぶりだな」
「フィレモン、何故お前が…」
「私は君と出会った十数年前、こう言ったはず。これから、君はきっといくつかの試練と選択を選ぶ事になるだろう。選び取りし答えがいかなる結果を産んだとしても、振り返ることなく、精一杯進むが良い_とな」
「試練と、選択…」

はたとなり俺が目を剥くと、フィレモンは満足げに微笑を浮かべた。

「左様。君は運命が与えた試練を乗り越え、時に悩み、苦痛に喘ぎ、それでも逃げる事なく選び続けた。
その腕に抱えた奇妙な赤子すら君は救いたいと願い、また死の今際でありながらも養子である双葉少年の幸福を願った。
…成瀬よ。その赤子は君が育てた君自身の畏れ、なのだよ」
「畏れ…」

そういえば、ずっと抱きしめたままだったおくるみを覗く。
そこには、いつだったか葉子に見せてもらった写真と同じ、赤ん坊の頃の双葉が安らかな寝息を立てていた。

「何かはもう答えずとも分かるだろう。君は孤島での一件以来、死神を畏れ、息子の力を畏れ、双葉少年のためと言いながら現実の問題_タルタロスとシャドウの呼ぶ滅びを畏れ、ずっと半人前の父親を演じながら同時に死神を育てる道化を演じ続けた。だが、もう君は道化などではない。死に立ち向かい、己の真の心へと目を向け、罪の意識から逃げるのではなく、真心から息子への愛情を抱いていた事を理解したはず」
「…ああ。俺は双葉を愛していた。俺の家族はあいつだけ。でも…」
「…時は待たない。全てを等しく終わりへと導く。だが、私は君の勇気と強い意志に敬意を表し、君に贈り物をしよう。受け取りたまえ」

おくるみが光に包まれ、収縮し、小さな球体となり俺の掌に収まる。
そっと手を開くと、そこには銀色の輝きを放つ無地のタロットがくるくると弧を描いて回っていた。

「これ、は…」
「それは君の決意と共に産まれた新たなペルソナ。今はまだ実像を結んではいないが、直にその姿は現れるだろう。
…成瀬。そのペルソナの持つ『救い』の力をもって、今宵の影時間の間だけ、君の肉体を苦痛から解き放ってあげよう。
君の望んだ通り、君の愛した息子_成瀬双葉と、かけがえのない戦友_堂島尚貴と榎本聡一郎をシャドウから救う猶予を君に与える」
「なっ…なんだと?!どういう事だ!!」

シャドウが、息子だけでなく堂島と榎本と襲うとはどういう事だ。事態が掴めない。

「幾月修司が動いた。あの男は彼奴めの化身にそそのかされ、日向双次郎の遺産であるペルソナ制御プログラム『エウリュディケ』完成のため君の息子を拉致し、保護者であった榎本聡一郎と共に監禁した」
「!?」

幾月。
日向。
エウリュディケ。
ペルソナ制御プログラム。
名前を聞いただけで何となく推論が立つ。
チーム内で幾月と通じていた「誰か」が残した、あの孤島での負の遺産か…。

ところで、「彼奴めの化身」とは誰だ?

俺の湿っぽい閃きを察したようで、フィレモンは見透かしたような微笑をたたえ、話を続ける。

「察しの通りだ。同時に君の見舞いに訪れるはずであった堂島尚貴へと接触を図り、言葉巧みに『エウリュディケ』のパスコードを入手し実験を開始する」
「なっ!?まさか、その実験は…」
「双葉少年が実験体となって行われる。だが、これは失敗に終わるだろう。彼奴めだけでなく、これは君の親友殿も把握している。間違いなく、実験は失敗する」
「失敗って…あいつは!双葉はどうなる!まさか、死神が…」
「ああ、目覚める。…だが、それ以上にエウリュディケの歌声は厄介な存在をこの地へ呼び込む事になる。それはあの孤島でのもう一つの負の遺産。君は自分の目で確かめなければならない存在だ。そして、それは死神以上に彼らを死へと招き入れかねない危険な存在なのだよ」
「死神以上の、危険…」

ぞくり、と背中に寒気が走る。
あれ以上の恐怖とは。

はは、なんというか、わくわくしてきたとでも言っておくべきなのかね?
息子を守る、正義の味方としては。

いや。
もう格好なんかどうでもいいんだ。
俺は決めた。
双葉を守ると。
そして、全てを守れる力があるなら、誰であろうと救いたい。
堂島。榎本。せめてあいつらだけでも、昔の仲間として生きていて欲しい。

守る。逃げない。
もう、失わない。

そう改めて思い直すと、不思議と力が沸いてきた気がした。

「いい顔だ」

フィレモンに真顔でそう言われると、何だか不良が担任に褒められたようなこそばゆい気分になり苦笑する。

「ところで、『彼奴め』って誰の事なんだ?」
「這い寄る混沌…ニャルラトホテプ。私と対なる存在の、顔無き神。先程君も出会っただろう、皮肉と自嘲に満ちた己の影を」
「あ…」

淀んだ混沌の中で出会った自分。あれは、俺では無かったのか。

「彼奴めは君たち自身が持つ暗き感情の化身だ。あの時君が見た姿は、確かに君のシャドウであり、また彼奴めでもある。
…ニャルラトホテプは人の暗黒面に働きかけ、精神の奈落に引きずり込む。人が暗き感情に囚われるとき、ニャルラトホテプもまた一つ、己の無貌に貼り付ける嘲笑の仮面を得て苦しみもがく人々を惑わし誘い、そして光無き闇へ蹴落とす。幾月もまた、彼奴めの犠牲者なのだよ」
「なんてこったい…」

幾月は踊らされているというのか。
同情はしないが、薄ら寒いものを背中に感じる。
俺も、幾月を笑えない。

「…名残惜しいが、そろそろ時間だ。さあ、戻りたまえ。君の決意、しかと見届けさせていただこう…」

神殿が、空間が遠のく。
身体が軽く、小さく、球のようになり浮き上がる。

蝶になる。
はばたく。

……
………
…………。

目を覚ますと、そこは病室。
正面の壁時計に目をやると、時刻はもうすぐ零時。

うとうとと聞いていたMP3のディスプレイに目をやる。

「One more time, One more chance」

この曲が主題歌だった映画を見てから、どれだけの時間が経っただろう。

時は、待たない。
だから、もう一度だけ。

ありがとよ、フィレモン。
俺は、やっと答えが見つかったよ。

MP3のディスプレイが、手元の蛍光灯が、消える。

影時間の到来。

俺は異様に軽くなった我が身に驚きながらも、立ち上がると窓を開け、外の空気を思い切り吸い込む。
血生臭い空気に懐かしさを覚えながら窓を開けたまま手早く着替え、コートを羽織る。
頭がこんなに冴えてるのも、身体の痛みがまるでないのも久しぶりだ。
嬉しいはずなのに、全身は緊張に包まれ心なしかピリピリしている自分に気付く。

部屋を出ようとして、ふとイヤホンが目に留まる。

いっしょに行くか。
俺は、もう一人じゃないんだ。

首からイヤホンとMP3を下げると、俺はコート内にしまったヨーヨーと手の内に輝く無地のタロットを確認し、消毒液の匂いが染みついた病室を後にした。












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